【like an angel of the devil】(2)〜円の場合〜

 スッと円の前に【ホワイト・レディ】が差し出された。
 【御結婚おめでとうございます。店からのささやかなプレゼントです。】
 マスターがさりげなく言葉を添える。
 『ありがとうございます、マスター。』
 『あ〜あ、なかなか来られなくなっちゃうなぁ。お酒も家で飲むだけかぁ。ねえ、マスター。このカクテルの作り方教えて。』
 【ドライ・ジン。コアントロー、レモンジュースをシェイカーに氷と一緒に入れて、シェイクします。】
 『コアントローって?』
 【フランス産のリキュールの一種です。】
 円は携帯を取り出すとマスターに向けた。
 『もっとレシピを教えて。』
 赤外線通信を終えるとマスターが言う。
 【コアントローはホワイトキュラソーの一種でコアントロー社が製造しています。無色透明オレンジの香りと、まろやかな甘さが特徴なのですが、氷等で冷やすと淡く白濁する。これがホワイトキュラソーと言われる所以です。】
 『マスターは何種類のカクテルが作れるの?』
 【さぁ?数えた事が無いから。】
 『マスターが一番好きなカクテルは?』
 【わたしは飲めないんです。】
 『え?それなのにバーテンダーを?』
 【味はお客様が飲んで確かめてくれます。美味しくなければ2度とこの店には来ない。】
 『随分危険な賭けですね。』
 【そうですね、でも結婚も同じですよね。独身の私には危険な賭けに思えますけど、だって僅かの間のお付き合いで一生を決められるんですから。あっ、失礼しました。】
 言われてみれば、大きな賭けだ。円もそう思った。
 マリッジブルー。
 多分そんなものなのだろう、この所実は迷い始めている。
 彼は確かに優しくて、清潔感溢れる人、何より頼り甲斐が有る。堅実で真面目な人だ。
 それなのに、ドキドキ感が無い。次に何をするのか時々先に読めてしまう。
 贅沢な悩みだと皆言うだろう。特に鈴や彼女は。
 自分でもそう思う。でも、・・・・・冒険を夢見ていた。
 危険な香りに包まれて見たい。
 ギリギリの攻防を・・・・この身が焦れる恋がしたい。
 『はぁ〜。』
 無謀な夢。
 マスターの目が微笑んでいる。良かったね、と言う祝福と平凡な人生を選んだ私への憐憫。
 私にはそう見えた。
 【どうぞ。】
 またしても目の前にカクテルが置かれた。
 【ギムレット。】
 『何故このカクテルを?』
 【チャンドラーの小説の中でレノックスが言ったセリフですよ。『I suppose it's a bit too early for a gimlet』】
『ギムレットには早すぎる。?』
 【ええ、そうですが、小説のタイトルを意識しました。円さんとは『長いお別れ』ですから。】
 アメリカのハードボイルド小説の作者レイモンド・チャンドラーの有名な探偵小説。
 フイリップ・マーロウが主人公のハードボイルドの中のセリフだった。
 そのほかにも有名なセリフが有る。
 『If I wasn't hard, I wouldn't be alive. If I couldn't ever be gentle, I wouldn't deserve to be aliv』
【男は・・・・『タフでなければ生きていけない。優しくなければ生きて行く資格が無い。』】
【『プレイバック。』だね。円さんに捧げるセリフに相応しいのかな。】
 【どうぞ、お幸せに。】
 切なさがこみ上げて来た。
 独身最後の夜でもないのに、なんだか自分だけが別世界に行ってしまうような気分になる。
 『マスター。お名前を聞いていなかったわ。』
 【マスターで結構です。】
 何故か拒絶された気がする。胸がキュンと痛む。
 マスターは花梨のカクテルを作っている。そして鈴のカクテル。どんどん私から離れて行く。
 あぁもう酔ったのね。
 帰らなくては。
 その前にお化粧を直して・・・・・
 誰の為に?何のために?
 いま何時?
 マスターが微笑んでいる。しなやかな指がシェイカーをシェイクしている。
 マスターがそっとカウンターを離れる。
 チーフに変わっていた。
 急いで裏口からそっと外を覗く。
 カチッ、ホープスーパーライトの箱が閉じられジッポライターの蓋が閉じられる。
 【ふぅ〜。】
 紫煙が立ち込める。
 煙が沁みたのか、目を細めて虚空を見た。
 痛い。チクリと胸が痛む。
 男の人の喫煙は嫌いだった。
 彼も煙草は吸わない。・・・・しかし夜の帳に紫煙が一筋、映画の場面がよみがえる。
 ボギーもこうして吸っていた。
 映画の様にセクシーな立ち姿。寂しそうな背中。
 そっとその場を離れた。
 見てはいけない風景。
 Barの中には、花梨、鈴、彼女が小粋にグラスを傾けている。
 こうして4人で飲むのは多分最後の夜。


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【like an angel of the devil】(1)

 今は何日で、何時頃だろう?明るいのか暗いのかそれすら分からない。
 確か金曜日の飲み会で、2次会までは覚えている。
 その日、同僚の結婚退職のお祝いにささやかな酒宴を開いた。
 幹事はわたし。
 30人いるフロアー全員を対象に、企画した。
 数人の脱落者(具合が悪い人1名、派遣社員の人5名、母子家庭の人2名)は出たが、この手の飲み会にしては出席率は近年に無く最高だった。
 それも、今夜の主役、総務課のアイドル円(まどか)と花梨(カリン)のお陰だろう。共に私の同期。そして鈴(リン)とわたし。
 4年間一緒に働いて一緒に遊び、お互いを親友だと思って来た。
 2人の恋も、もちろん相談を受けていた。
 わたしと鈴の恋も相談した。
 彼女らは実り私達は散った。ただそれだけ。
 円も花梨も職場結婚。
 半径2メートルの恋、わたしの場合は半径50km、鈴は不明、その差が今の境遇の違い。
 些か御酒を頂き過ぎた。わたし以上に鈴も円も花梨も飲んでいた。
 惜しまれつつ1次会は無事に終了し、皆と別れて4人で街に繰り出していた。
 4人とも酔ってはいたが正体を無くす程では無かった。
 渋いドアノッカーを叩いて、店に入って行く。
 4人行きつけのbar。
 【like an angel of the devil】
 ここは初め鈴に連れられて来たお店。いつの間にか常連になっていた。
 オーナー兼マスターのいつもの優しい笑顔。
 スツールに座ると黙って、最初の1杯が配られる。
 【モスコーミュール。】
 10オンスタンブラーに注がれたライムとジンジャーエールの喉越しの爽やかな味わい。
 酔った私達には素敵な選択。
 スミノフ・ウオッカとローディアル・ライム。そしてジンジャーエール。これは絶対ウィルキンソン、カナダドライじゃダメ。
 ウオッカとローディアル・ライムをタンブラーに注ぎ、1/4カットライムを絞り入れ、冷えたウィルキンソンで満たし軽くステア。
 これだけの簡単なカクテルが酔った喉に爽やかさを加味する。
 マスターはその時々の私達の気分で最初の1杯目を出してくれる。
 その日酔った私達は強いお酒から入った。
 円と花梨の前に、【ラスト・キッス】のグラスが置かれた。
 私と鈴には【スカーレット・レディ】。
 どちらもラムベースのカクテル、カクテルについての蘊蓄を聞くのも、この店だと嫌みが無く聞ける。蘊蓄と言う程のものでもないが。
 『マスター?何故このチョイス?』
 【円さんと花梨さんには、そうですね結婚前夜の、独身最後の夜に最後のお酒を噛みしめて飲む。と言うイメージでしょうか。】
 『じゃぁ、私達は?』
 鈴が聞く。
 マスターがにやりと笑う。
 【文字どうりに訳すると、『緋色の女』『深紅の女』・・お二人のイメージです。】
 私はマスターの含み笑いが気になったので、聞いて見た。
 『で、裏は?マスター。』
 【・・・scarlet woman と書きますと。・・・『売春婦』つまり『みだらな女』と言う意味になるんです。結婚されずに独身を謳歌する、お二人を茶化して見ました。】
 今度はマスターが澄ました顔で言う。
 『モー酷い。』と鈴。
 『あーヒド。』とわたし。
 『ん、おいしいわぁ。』
 間の抜けた声は花梨だ。
 『ラスト・キッスってどう作るの?』
 【用意するのは、ホワイト・ラム。ブランディー。レモンジュース。それらと氷を一緒にジェーカーに入れシェイクするだけ。カクテルグラスに入れてさぁ出来上がり。】
ショートなので、早めに頂く。
 【ついでにスカーレットは、ホワイト・ラム。カンパリ。マンダリン・リキュール。フレッシュ・レモンジュース。マラスキーノ。オレンジ・ピール。オレンジ・ピール以外と氷をシェーカーに入れシェイクして、カクテルグラスに注ぐ。最後に三角にカットしたオレンジ・ピールをグラスのエッジに飾って終わり。】
 これもショート。
 全くここのマスターは皮肉屋なんだわ。


【映像の中の女】

それが送られてきたのは、6月のある土曜日の夕方だった。
 玄関のブザーが鳴った。
 いつもなら妻が応対するのに、何時までも呼び鈴がなっている。
 【あぁ・・出掛けるって言っていたな。忘れていた。】
 玄関のドアを開けると、胸元に黄色い背景を擁した黒い動物のワンポイントが目に飛び込んできた。
 「お届けモノです。受け取りをお願いします。」
 差し出されたのは何の変哲も無い、B5番の紙袋に梱包された包みが一つ。
 印鑑を探して居間をうろちょろして漸くTV台の下の文箱の中にそれを見つけた。
 受け取ったそれの差出人に見覚えが無い。
 宛名は確かに私である。
 居間に持ち帰り、中身を開ける。空気の入った緩衝材に包まれた物が入っていた。
 指でプチプチ潰した経験が誰にもある、例のアレ・・プチプチである。
 それを外し手中身を確かめる。
 DVDケースが1枚入っている。タイトルは無く、市販の格安DVD―RW、恐らく10枚組みで8、900円のモノ。
 私は【しまった。アレかな?】と思わず呟いてしまった。
 子供が学童になると途端に増える学習教材の案内や塾、家庭教師派遣の誘い。
 その中には送り付け商法に近いものもある。勝手に送り付けて開封したら請求書が出て来るといった按配だ。
 その類かな?と思った私は、つい舌打ちをしたのであった。
 予想に反して中にあったのはケースが1個と中身のディスク。
 表を良く見ると小さな文字で番号が振られていた。
 私はディスクケースを開けてDVDをデッキにセットした、
 映像が流れ始める。
 どうやらドライブの様子を写したものらしく車窓から景色が流れ出している映像。
 『ここ懐かしい。・・・。以前来たことが有るわ。』
 女の声が聞こえる。
 聞き覚えのある声ですが、自分の知っている声色より幾分明るめの声だったので、聞き流した。
 【一緒に出かけるの、久し振りだね。良く時間が取れたね。】
 『もう・・そんなこと言わないの。判っているでしょう。』
 車内の会話はごく普通の恋人同士の会話に聞こえた。
 (何だ拍子抜けだな。どんな映像が流れるかと思えば、ごくまともな映像だ。)
 【あ〜あ、一泊の旅行は短いなぁ。ねえ、今度はもう少し長く行けない?】
 『ダメよ。それにあなただって。』
 【お互い儘ならず、と言う訳か。】
 『そうよ。何度も話し合ったでしょう。』
 何やら会話の方向が普通の恋人同士の会話では無い様子。
 (これって?_)
 『私は厭よ。今の生活を壊すのは。』
 【判っているって。俺も同じ。】
 【でも・・・お陰で昨夜の君は激しかったな。最近していないの?】
 『バカ。・・・しないわよ、あなたに悪いもの。・・・・あなたはするの?』
 【あぁ、不自然に思われないようにしなくちゃね。・・・義務と言う奴さ。】
 『不潔よ。・・・信じられない、これだから男って嫌ね。』
 【オイオイ。そんな事を言っても、君だって・・・求められたら断れないだろう?】
 『私は断るわ。あなた以外の人に触らせたく無いもの。体調が悪いと言えば、大抵大丈夫よ。』
 【悪い人だなぁ。】
 『あなたがそう仕向けたのよ。』
 車が駐車場らしき空間に入る。
 『ねえ。ここでして。』
 【なんだい?昨日は満足しただろう。?】
 『うん。・・でも・・・したくなっちゃった。』
 男が左手を助手席の女に伸ばしている。
 左手はスカートの裾から中に伸びている。
 『あぁ。・・・もっと触って。』
 【もう、こんなに濡らして。・・・スケベな身体だ。】
 『あなたがイケナイの。・・こんなカラダにして。・・あぁん。ソコ・・強く・・触って。』
 【指が喰い千切られそうだ。】
 『そんな・・恥ずかしい事・・・言わないの。』
 【このままじゃぁ、シートが汚れる。・・・休んで行くか?】
 『うん。もう、我慢出来ない。』
 また車が移動する。
 次に映像が写ったのは部屋の中だった。
 『先にシャワーを浴びさせて。下着が濡れて気持ち悪いの。』
 【あぁ、スグに行くよ。】
 バスルームに消えて行く女の後姿が映し出される。
 背が高く、スリムな体型である。
 また場面が変る。
 バスタオルで髪の毛を拭いている女のシルエットが大写しで見えた。
 男が女の前に立つ。
 女は手を男の腰に当て、顔を男の股間に近づけて行く。
 【ふっ・・随分上手くなったね。】
 『フゴ・・』
 女は男のシンボルを咥えたのだろう。返事は言葉にならない。
 【いいぞ。そう・・裏筋に舌を這わせて。・・・そう、上から唾液を垂らして。】
 【うぅ。・・・イヤラシイ眺めだ。】
 ここでカメラが大きく揺れた。
 真上から女の頭を写しだしている。
 男の手が女の額に掛かり、少し後ろへ押した。
 女はその動きに合わせて、顔を少し離す。
 男のシンボルの先が女の唇の中に消えては現れる動作を写す。
 音声がピチャピチャ。ジュプジュプ。クチュクチュ。べチャべチャ、音を拾う。
 生々しい音だった。
 ふと映像を良く見ると、男の足が片方少し前に出されていた。
 女の腰が男の脛の前で上下に動いている。
 太股で脛を挟み、上下に磨っている。
 脛はヌメヌメと光を反射している。
 女の動きがイヤラシイ。
 【ウッ出すぞ。】
 唐突に男の声が響く。男の尻が小刻みに震え、尻肉が強張る。
 映像が唇から下を写しだす。
 唇から顎に掛けて、白濁液がこびり付いている。
 【また、溢したね。】
 『はぁ〜。ゴメンなさい。何度しても全部飲み込めないの。あなたの濃いんですもの。』
 『今度膣(なか)で出して膣(なか)で全部受け止めるから。・・・あなたのモノを私に頂戴。』
 女は艶の有る声色で男を誘う。
 私は不倫セックスを見ている事にドキドキしながら、映像に引き込まれて行く。
 男も女も顔が見えない事で、色々な想像が頭をよぎった。
 気になる近所の奥さんやお隣のご主人の姿を思い浮かべて悦になっていた。
 『ねえ、少し休んで。あなたも若くないんだから、直ぐには復活出来ないわよね。』
 【あぁ、1度のセックスで2回も3回も出せないよ。・・・君は逆に若い頃より激しくなったね。何度も求めて来るようになった。】
 『だって・・感じるんですもの。・・・セックスする度に身体がバラバラになりそう。もう、本当にヤバいわ。・・・あなたに抱かれていないとどうしようもなくなってしまいそうよ。』
【ふ〜ん。女の感じ方は良く判らないけど、・・・つまり、俺じゃないと感じない、と言う事?】
『そうねぇ、相性が良いって事かな。・・・愛しているのは夫、でも、セックスはあなたとだけしたい。』
【本当に女って怖いな。心と身体は別ってか?そんなに割り切れるものなの?】
『あら、じゃぁ心も受け止めてくれるの?』
【・・それは・・無理。】
『ほら、男の方がズルイ。女は受け身なの。男の態度でどんな風にも変るわ。・・あなたが望まないから、私はこうなったの。』
【しかし、君の旦那も気の毒だな。間男に妻が好きなようにされているのに、気付かないなんて。】
『男なんてそんなものよ。自分の妻が髪型を変えても気が付かない。着る洋服の趣味が変っても気付いてくれない。下着が派手になっても見向きもしない。何時も自分が知っている女だと思っている。毎日毎日変らない生き物だと思っているのね。女だって、毎日毎時間毎分毎秒、何かしら、変化しているのに。身体の具合、感情、その時々で違うわ。相手をちゃんと見ているから、男の浮気も直ぐに気が付くの。』
【なるほど。】
『あなたは少なくても、髪型や洋服の変化に気付いてくれるわ。そんな小さな事が女には嬉しいの。自分の事を見てくれる存在がいると安心するの。だから・・』
【だから、なに?】
『言っちゃおうかなぁ、どうしようかなぁ?・・・あのね、心も傾いているわよ。』
『ね、して。』
女が男に覆い被さって、両手でお横の顔を挟みこむ。
 濃厚なキスをすると身体を下の方にずらし、男のシンボルに頬ずりした。
『可愛い、食べちゃいたい。』
女は真上から男を咥えた髪の毛が邪魔して顔が見えない。
口元だけが大きく開きシンボルを飲み込んでいるのが見えるだけだった。
男が上体を起こして女に何か言う。
女は身体を動かして上下を逆にした。
女の股間が男の目の前に差し出される。
 画面には赤い色をした亀裂が尻のあわいに見えている。亀裂に掛かる黒い翳りがエロい。
 男の舌が亀裂に潜り込む。ピチャピチャ水音が微かに響いた。
 女は股間を濡らしている。男は唇をあてズズッと啜る。
 『あぁぁ、気持ちイイ。いいの。』
 女はいつの間にか男のシンボルから口を離していた。
 代りに握った手を上下に擦りたてている。先走りの液が女の手をヌルヌルに汚していた。
 男が女のカラダの下から下半身を抜く。
 後ろから女の腰を掴み、男を女の亀裂に宛がう。
 『うぁあ。くる、入って来る。ああん、硬いわ。』
 男が女の長い髪を掴み束ねた髪の毛を後ろに引いた。
 女の顔が丸見えになる。
 快感に歪む顔。口からよだれを出して悦びを表している。

 (まさか。)
 
 毎日顔を合わせている妻だった。


【明日晴れるかな?】(35)

 【以前こんな事が有った。覚えているかいユリねえ。】
**************************************
【・・・・俺・・・ユリと一緒に暮らせない。】
 ユリは衝撃を受けています。恐れていたことが現実になったのです。
 自業自得とは言え、現実になると目の前が真っ暗になってしまいます。
 激しい後悔がユリに襲い掛かってきます。
 (どうしよう、どうしよう。・・・いやだ、真ちゃんゆるして、ユリを許してください。)
 【まさか・・・と、思ったよ。初めて知った時には。】
 『違うの、違うの、真ちゃん。』
 ユリの目から涙が溢れていました。
 【目の前が真っ暗になったよ・・・・どうして?どうしてなんだ。】
 ユリの目から今では大粒の涙が零れています。
 真一の言葉一つ一つがユリの心に突き刺さります。
(あぁ・・・真ちゃん・・・あなた・・・ごめんなさい。・・・・私は・・・馬鹿な女です。あの時、あなたに全部話していれば、こんな事にはならなかった・・・・あなたに知られるのが怖くて・・・汚れたユリを愛してくれないかもしれない。そう思ってしまったの。)
 【何でだよ、俺が何をした?俺はそんなに酷い事をしたのか?】
 ユリがブンブン頭を振っています。
 (そんな事無い。全部ユリが悪いの。・・・・あなた・・・真ちゃん。あなたを苦しめてしまった。・・・どう償えば許して貰えるの。許して貰うにはどうすればいいの。)
 【チクショウ!】
**************************************

 夫の回想にユリは記憶を呼び覚ましました。
 この後、常務の精液を身体が求めたのでした。

 【・・・・その少し前・・・俺は・・・遺伝子レベルで被爆した。】

 【遺伝子が損傷して、子供を作る能力を奪われた。・・・・泣いたよ。悔やんでも悔やみきれず、恨んでもどうしようもない。俺はユリに子供を授ける力を失った。】
 ユリは言葉も無く夫の告白を聞いています。
 
 【・・・・逢いに行ったよ、常務に。・・・逢って何度も何度も殴った。暫くユリの前に現れなかった事が有るだろう。・・・・出られる状態じゃ無かったからな。】

 【殴って・・・・殴って・・・殴り疲れて・・・倒れている常務に・・お願いした。】

 【俺の代わりに2人に子を授けてくれるように・・・】
  ユリは驚愕の余り声も出ません。
 
 【欲しくても俺の子はユリにあげられない。どうすればいいのか悩んだ。悩んで悩んで・・俺は・・・頭がおかしくなった。・・・俺の妻を犯した男に俺の代わりに子を生せと頼んだ。】

 【常務に心が移ってしまうかもしれない。その恐れは何時も有った。抱かれる度に気持ちが移るだろうと、覚悟もした。】

 ユリは夫の言葉に、迷い惑乱した自分の過去を思い出し、常務に心を移しそうな自分を恥じました。
 不思議と自分を騙した夫に対する怒りは湧いて来ません。
 それより、健康だった夫が・・・と思うと涙が溢れて仕方が有りません。
 夫の事を怒る事も、憎む事も、蔑む気にもなれませんでした。
 夫は気がおかしくなった。と告白しましたが、それは嘘だと感じました。
 血の涙を流し唇が破れるほど噛んで、耐えたのでしょう。

 【・・・・黙っていて済まなかった。・・・言えなかったんだ。】
 
 【憎いだろうね。】

 『ううん。・・・・恨んでなんかいない。・・・・でも・・・・悔しい。』

 『どうして言って下さらなかったの?・・・私・・あなたの妻なのに。』
 妻と言う言葉が強く発せられました。

 『・・・どんな事でも・・・二人で乗り越えられる。・・・私が言っても嘘っぽいね。クスッ。』
苦笑交じりの言葉です。

 『あなたを・・・真ちゃんに告げられず、ズルズルと関係を続けて・・・・妊娠してしまう。・・・妻失格かなぁ。・・・真ちゃんも・・・夫・・・失格よね。』

 『真ちゃんが・・・許してくれるなら・・・失格者同士・・・3人でやり直しましょう。』

 【ユリ・・・ユリ。・・・・】
 
 『でも、真ちゃんが・・・サディストだったなんて。知らなかったわ。』
 ユリはうっとりした眼で真一を見つめます。
 
 【俺もユリがあんなに早く奴に堕ちるとは思わなかったよ。正直、焦った。】
 『そんな。だって・・・わたし』
 【いいさ、俺は自分の妻だから、ずっと遠慮が有った。君を傷つけてしまうかも知れない事を恐れた。それに・・・もしユリにその気が無かったら・・・俺は軽蔑されてしまうだろ。】

 他人が聞いたらウヤムヤの内に関係が修復してしまい、可笑しいと思うに違いありません。
 しかし二人とも判っているのです。
 お互いが相手を必要としている事に、その為には敢えて少し目を瞑り、やり直して見ようと思ったのです。
 ここで壊してしまう事は簡単です。
 いつお互いの事を赦せなくなってしまうのか、罵り合い、喧嘩をして別れてしまうのか、判らない程危ういのです。
 でも、少なくても妻を想ってした事、夫を想ってしなかった事、そのどちらの想いも理解する事が出来たのです。
 頭で考える事が出来ると言う事です。
 人間、頭で判っていても、感情で判らない事が多々あります。
 好きで一緒になった男女、婚姻届によって結びつけられた絆。
 しかしそれは、紙切れでしかないのです。
 紙切れを硬い鎖に変えるのは、相手を想う強い錬金術・・・愛情です。
 ユリと真一は今、夫婦の危機によって逆にスタートラインに立ちました。
 走り続け、転んでしまうかもしれない。疲れて立ち止まってしまうかも知れない。
 長い夫婦生活には様々な道程が幾通りにも伸びています。
 この物語のユリと真一は、この道を選びました。
 別の物語のユリと真一は別の道を辿るでしょう。
 形はどうであれ、2人が歩む道に決して間違いや正解は無いのです。
 この夫婦の物語は、ここで一旦舞台から外れます。
 またいつか、その後のユリと真一を描く事が有るかもしれません。二人の明日は晴れるでしょうか?
 真由美の事が気掛かりです。
 1人良い想いをした常務の事も気になります。更にイイ女をモノにしてしまうのでしょうか?鉄槌を下されるのでしょうか?・・・・・いつかまた・・・・・
 
                               ― Fin ―


【明日晴れるかな?】(34)

 【その子は・・・俺の子だ。そうだな。】

ユリは夫の言う意味が判りまあせんでした。しかし真一はお構いなく話を続けます。

【ユリから生まれて来る子供は、書類の上では全て俺の子だよ。俺が親子関係の事実無効を訴えない限り婚姻しているのは俺とだからな。】

そこまで言われてユリにも理解出来ました。

 例え夫以外の男の子種で妊娠出産しても法的には真一の子供となるのです。

【戸籍法第49条第1項にには「出生の届出は、十四日以内(国外で出生があつたときは、三箇月以内)にこれをしなければならない。となっている。同条第2項第3号には「父母の氏名及び本籍、父又は母が外国人であるときは、その氏名及び国籍」を記さなければならない。また、民法内772条妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する。第2項には婚姻の成立の日から二百日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から三百日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する。」

【第774条から第777条まで嫡出否認に関する事が規定されている。・・・それをするかどうかは夫の権利だ。】

 夫にこのような知識が有る事にユリは驚きました。多分夫はユリの不貞に以前から気が付いていて、調べたのでしょう。
その時の夫の心中を思いユリは涙が出てしまいました。
どうして自分1人の浅はかな考えで夫を傷つけてしまったのか、後悔しても遅かったのです。
この子を堕胎して夫に全てを話す。その結果離婚されても仕方が無い。今度はそう考えてしまいました。

【ユリ・・・今良くない考えを持ったな。形が出来上がっていなくても立派な命だ。そんな事は許さない。】

 ユリの考える事は夫に見透かされていました。

『あ、あっぁ。』

ユリは言葉にならない呻き声しか出せません。
漸く絞り出すように言葉を発しました。

『どうして真ちゃん。どうして怒らないのぉ!』

真一は不思議そうに小首を傾げます。

【何を?】

ユリは真一の言葉に絶望しました。
夫の中では自分のした不貞は怒る価値も無い事だと思われているのです。

『あなたを裏切って、他の男に抱かれて、妊娠したのよ。普通の夫婦なら怒られ怒鳴られて離婚でしょう。』

【ふ〜ん。ユリはその男が好きなのか?】

夫の言う事は少しピントがズレていると感じたのですが、答えました。

『あんな人好きになるものですか。こんな事を言っても信じて貰えないでしょうけど、・・・今でも、好きなのは・・・あなたです。』

【ありがとう。それなら良いや。】

『ほ、ほ、本当にそれだけで良いの?』

悩み苦しんだ事が虚しくなるようなあっさりとした物言いです。

【ユリは身体だけその男に与えただけだろう?心はあげていない。それならまた二人でやって行けるよ。いや、3人かな?】

ユリは夫が怒りの余りおかしくなってしまったのだと思いました。どう考えてもこれだけで済む筈が無いと思っています。

 『真ちゃん。どうしたら許して貰えるの?』

 【許すとか許さないとか、もう関係ないよ。ユリは元気な子を産む。俺は二人の為に頑張る。今はそれだけだろう。その後は二人で子育てする。】

『それでは真ちゃんだけが辛い思いをしている事になる。私を罰してくれないと気が済みません。』

 【そうか・・・・じゃぁ・・・今直ぐ俺の前で全裸になって・・】

 真一がさりげない調子で言います。
 ユリは一瞬だけ躊躇いましたが、言う通り抗う事をしないで服を脱いで行きました。
 ブラとショーツだけは恥ずかしいのか後ろを向いて裸になります。

 【こっちを向いて。
 この言葉には流石に数十秒の躊躇いが生じました。
 暫くしておずおずといった様子で股間に手を置き隠すようにして前を向きました。

【その手をどけて。】

 陰毛が薄らと疎らに生えた股間が現れました。
 常務に剃られ手から以前の翳りを取り戻してはいなかったのです。
 真一は無言でユリの股間を見詰めています。真一の記憶と佇まいが違う事は明らかです。

 『うぅ・・』

 小さくユリが呻きます。
 不倫を告白したものの、その具体的な証拠を初めて夫の目前に晒したのです。

 【なんとまぁ。こんな事もしていたんだ。】

 ユリの身体がビクっと慄きます。

 【これじゃぁ、ユリのオマ○コが見えてしまうね。恥ずかしくないの?】

 夫の言葉に股間を隠そうとするユリです。

 【ダメだよ。そのまま動かないで。】

 夫の言葉にそれ以上手が動かせなくなってしまうユリです。

 【前からなのに、オマ○コからビラビラした肉襞が見えるよ。】

 『あぁ、ゴメンなさい。許して。』

 【おや?乳房に手型が残っている。】

 ユリは慌てて胸を隠します。

 【サイズアップは妊娠したからでは無いようだね?】

 ユリの手を払い除けながらむんずと掴み右に捻ります。

 『ヒッ、痛い。』

 またしてもユリの知らない真一の振る舞いです。
 掴んだ手を離すと、手を振り上げ乳首を平手で霞めるように叩きます。

 『ぅう・・・』

 痛みの残る乳首に真一は舌を這わせます。
 叩いた時とは打って変わって優しい舌使いです。
 乳輪をゆっくり時計回りになぞります。
舌先の微妙なバイブレーションがユリの乳房を揺さぶります。

 『うぁあ。』

 常務に開発されたユリの性感は自身の身体を裏切って感じ始めています。
 追い打ちを掛けるように、真一は乳首を啄ばみます。


【明日晴れるかな?】(33)

  【その椅子に座って。】

 【で、俺に何か言う事は?】
 
 【黙ってないで、何か言いなよ。】

 夫のひと言一言がユリを追い詰めて行きます。
 今では夫に大方知られてしまっていると、ユリは覚悟していましたが、その夫が核心をはぐらかしているのです。
 それに耐えじっと俯いたまま、身動ぎもしません。ただ俯いて泣くだけです。
 
 【何時からだ?】
 ここで初めてユリが口を開きました。
 
 『お願いです・・・・離婚して下さい。あなたをずっと裏切っていました。こんな私を離縁して下さい。』

 ユリは心の中で血を吐きながら夫に言いました。
 【俺は、何時からだ。と聞いたんだ。】

 ユリの気持ちを忖度せずに真一は再度聞きます。
 ユリは一層惨めな気分です。
 妻が不倫をしていたのに、夫は怒りもせず、切っ掛けを聞こうとするのです。
 自分は、その程度の妻だったのか・・・
 仕出かした事を棚に上げ、ユリは夫に怒りと自分に対する哀れさを感じてしまいます。
 
 『異動して少し経ってからです。』
 それでもユリは答えました。
 
 【離婚してどうする、一緒になるのか?】
 『いいえ、一緒になんかなりません。』
 【どうしてだ?好きだから、ずっと俺に隠して関係を続けていたのだろう?】
 夫は、誤解しています。ユリが好きで常務と関係していたと思っています。
 『違います。あんな人好きでは有りません。誰があんな・・・・人でなしを・・・』

 真一は小首をかしげて、違う質問をします。
 【好きでもないのに、抱かれていたのか?・・・・ユリねえは、セックス好きの淫乱妻だったと言うのか?】
 
 夫にそれを言われると思いましたが、いざ言われると凄く惨めです。
 『違います。違うんです。』
 【何が違う?俺を裏切り、今年の初めからずっと、アイツに抱かれていた。その手で食事を作り、その顔で俺に笑い掛ける。よくそんな事が出来るな。!】
 
 ユリは反論できません。事実常務に抱かれた直ぐ後に、夫の食事を作り、夫の他愛のない冗談に笑う、そんな生活でした。
 どれ程辛かったか、どれ程罪悪感に押し潰されそうになったか。どれ程泣いたか。今となっては、言っても先の無い事です。
 夫を騙していたと言う、事実だけがユリの前に有るだけです。
 自分が真一をどれ程愛しているか、その生活を守りたかったか、言っても意味の無い事でした。
 初めに凌辱された時に、夫に相談するべきでした。
 相談出来なくても警察に行くべきでした。
 世間に知られたくない。まして愛する夫にだけは言えない。
 そう思った事が、ボタンの掛け違いでした。
 あとは良いように常務に翻弄され、彼の女になってしまったのです。
 この事について、夫に言い訳を言えません。
 嫌なのに、身体を重ねる度に常務に馴らされてしまう。
 ユリは女のカラダの哀しい性に啼きました。
 物語に中だけの虚構だと、想っていたのに自分に降り懸かって初めて自分の身体を疎ましく思いました。
 汚れた指で夫に触れ、夫にキスする自分。
 汚れた指で、夫の食事を作り、夫の汚れものを洗濯して綺麗にする。
 普通の主婦が当たり前のようにする事が、1つ1つ夫を汚していたのです。
  
 【その子は・・・・だれの子だ。】

 決定的な一言です。
 これに答えれば、真一はもう手の届かない所へ言ってしまうでしょう。
 答えなければなりません。

 『・・・・あ・・・あの・・・。』

 しかしユリの口から直ぐには言葉が出ません。




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【明日晴れるかな?】(32)

 全裸で、居間の床に横たわっていたユリでした。
 ユリの股間は白濁液で汚れています。
 ユリは疲れ果てクタクタになった上体を起こして、夫の真一の姿を確かめます。
 『よかった。・・・あなた、ゴメンなさい。』
 夫は眠っています。ユリは安堵のため息を吐きました。

 【ユリ。・・・】

 ユリはハッと顔を上げました。真っ青な顔です。
 そこには、薄らと目を開けて横たわる夫がいました。
 哀しみの色が浮かぶ目でした。

 『ひぃぃ・・・あなた・・・。』
 それきりユリは絶句してしまいます。
 
 次にユリが気付いたのは、寝室のベッドの上でした。
 きちんとパジャマを着せられ、寝かされています。
 (・・・・?・・・真ちゃん?・・・あぁ、どうしよう。・・・)

 ユリは、パニックに襲われました。
 服を着せて、ベッドへ寝かせてくれたのは夫に違いありません。
 あのような格好で床に寝ていたのを、完全に知られた訳です。
 常務の精液をオマ○コから垂れ流して伸びていたのです。どのような言い訳も効きません。
 当然横を確かめますが、夫の姿は有りません。
 いえ、温もりどころか、シーツの皺も無いのです。

 (・・・何処。真ちゃん。・・・・居なくなってしまった?・・・・うぅ・あぁぁ・・)

 真一は出て行ってしまったのでしょう。
 妻の裏切りに耐えられる筈が有りません。怒りよりも絶望が夫を、この家から去らせたのでしょうか。

 ガサッ!

 台所で物音がしました。
 ユリは飛び起きて、ドアに駆け寄ります。
 ドアを開けた途端に、良い匂いがユリの鼻腔をくすぐりました。
 コーヒーの馥郁たる匂いです。
 夫が淹れるコーヒーの芳しい匂いです。専用のパーコレーターで淹れます。
 ドリップ式やサイフォン式では無く、粗野な方式です。
 浅炒りの豆で粗く挽いて、パーコレーターに入れ、火に掛けます。
 コーヒーの品種には拘らず、飲みたいモノを飲む。

 夫が良く言っていました。

 【産地や品種、淹れ方に拘るのは女だね。コーヒーが日本で普及したのは、アメリカ人のせいだよ。そのアメリカで普及したのは、西部開拓時代に、野外露営で硬水を飲み易くするためだ。コーヒー豆をフライパンで煎って砕いたモノをビリーにぶち込んだ。飲む時には首に巻いたバンダナで濾して飲む。その程度の飲み物だよ。】

 【そんな粗野な作り方をする飲み物に、産地がどうの、品種がどうの、言っても意味無いだろう?アラビアでも砂糖をぶち込んで甘くするコーヒーだよ。コーヒーの味なんて関係無いじゃないか。俺はね、コーヒーだけは蘊蓄を気にせず、好きな時に好きなように、好きな方法で淹れ呑む。】
  
 勢いで飛び出して来ましたが、いざ台所のドアに手を掛けると、躊躇してしまいます。
 どんな貌で夫に会えば良いのか。どんな言葉を掛ければ良いのか?途方に暮れました。

 涙を溢しながらユリはそっとドアの前から踵を返します。
 夫に逢う資格を己の罪で無くしてしまった。
 一時の快楽で我を忘れて狂ってしまった。
 そして取り返しのつかない事を・・・お腹の子には罪は無いけれど・・・
 
 お腹の子の事を想うと死ぬ事は選択出来ません。
 夫の前から消えるしか残されていない。そうユリは覚悟しました。
 祝福されない子・・・・この子と2人で生きて行こう。
 この子を見る度に夫を裏切った自分を責め続ける事でしょう。
 しかし、ユリには堕胎は絶対考えられません。
 まだ人間らしい形さえ成していない我が子。それでも、母性の芽はユリに湧いています。

 廊下にユリの流した涙が点々と続いています。
 さして広くない我が家、その廊下を身の回りの品を詰めたバッグ一つ持ったユリが歩いています。
 
 【ユリ。】
 玄関で呼び止められました。
 真一です。
 ユリは振り返る事も出来ずに、身を竦ませました。
 
 【何している、こっちに来なさい。】

 普段の夫からは言われた事の無い強い口調です。
 ユリは抗いようもなく、夫のいる台所へ入って行きました。


【明日晴れるかな?】(31)

 『あぁ、ゆるして・・・夫の前では・・・許して下さい。』

 ユリは力なく厭々と頭を振っています。
 常務はユリの頭を掴み、真一の前に引きずって行きました。
 引きずられたユリは両足を投げ出し、両手で体を支えて夫に接触するのを防ごうとしています。が、真一の頭の上に覆い被さる格好になっています。
 ユリの乳房が真一の顔に触れるか触れないかのギリギリの状態で耐えていますが、常務は苦しげに喘ぐ、ユリの頤を片手で上げさせました。
 その体勢のままユリの鼻先にチ○ポを突きつけた常務は、。亀頭の先の先走りの液を擦り付けて顔を汚します。
 さらに恥辱を与えるために、柔らかい唇の感触を愉しんだ後は、鼻の穴、瞼、耳の穴へと亀頭を動かしありとあらゆる穴を汚し捲くりました。
 今まで常務から、この様な仕打ちを受けた事のないユリは、目に涙を浮かべ屈辱に顔を歪ませています。
 歪んだユリの頬は真っ赤に染まり、単純な嫌悪感ではない何か別の感情を持っているようでした。
 何度も馴れ親しんだ常務の性器では有りましたが、夫の顔の上で汚される事に、ユリは異常な興奮を覚えてしまいました。
 屈辱的で背徳的な状況はユリの脳髄を焼き、白く染め上げていきます。
 常務が亀頭の先で強く押すと、ユリは自然と小さく口を開き、更に常務が押し込むと口いっぱいに常務の性器を受け入れてしまいました。
 受け入れてしまうと、ユリは躊躇いを捨て、舌をチ○ポに絡めて啜ります。
 深く銜え、吐き出し、茎胴を舌先でチロチロ舐め回し横銜えしている姿は、夫の目の前で他人棒を銜える人妻の姿とは思えません。
 とても卑猥な姿です。
 ユリの流した涎は真一の胸元に垂れて、ベタベタに汚しているのです。
 暫くそのままにさせていた常務は、ユリの頭をまた押さえました。
 『あん・・』
 ユリは上目遣いで常務を見上げました。なぜ止めさせるのか、ユリの目はそう言いたげでした。
 常務は身振りでユリのカラダを入れ替えを指示しました。
 ユリはいそいそと、夫の顔を跨ぐように尻を常務に向けます。
 眠っている夫が目を覚ましたら、目の前にパックリと肉の襞を開いた妻のオマ○コが見えたはずです。
 その先端には豆のように膨らんだクリトリスが顔を出し、涎を吹き零す膣口も暗い穴奥を見せています。
 
 ユリの腰をガッシリ掴んだ常務は、亀頭をユリの膣口に嵌め込むと、肉が練れて来るまでじっとしていました。
 焦れてきたユリは後を振り向き、切ない顔を常務に向けます。
 素知らぬ顔の常務に、またしても焦燥感を煽られて、声に出して求めてしまいました。

 『おねがい、欲しいの。早くください。焦らさないで。』

 この頃では、声に出して言う事で一層感じてしまう事をユリは自覚しています。
 常務の言葉嬲りで感じてしまう女にされている。
 そう思うだけでも、より快感を味わう事が出来る。そんな女になってしまっているのです。

 【ユリはイヤラシイ体をしているな。チ○ポを銜えて離さない。】

 常務のこんな言葉でも感じてしまいます。

 【出産したら、ユリのオマ○コの改造手術をしよう。小陰唇の縮小手術だ。この頃ビラビラが肥大して大陰唇からはみ出しているからな。ユリも恥ずかしいだろう。】

 『そんな・・・言わないでください。』

 【旦那も本当は、気が付いているんじゃないか。ユリのオマ○コが変わってしまっている事を。】

 『うそよ、そんな事。』

 でも、ユリも内心気にしているのです。
 1人でお風呂に入った時に自分の身体を点検する習慣が身に付いているのです。
 処女の頃はそれ程気にした事は無かったのですが、男性に抱かれるようになって、気になりだしたのです。
 色・形・体臭等、気にしだすと悩む事が色々出て来るのです。
 自分のあそこは、男性にどう見られているのか? 
 他の女性と比べられているのではないか? 
 変じゃないのか?
 匂ったりしていないか?
 女性は特に気にするものです。
 ユリも同じでした。
 真一と結婚してからは多少疎かになっていたかもしれません。
 嫌われるリスクが夫婦には小さいからです。
 結婚はユリに安定をもたらしましたが、その反対に女としての緊張を奪ってしまったのです。
 恋人時代は、常に彼に気に入られようと、努力を重ねています、しかし、1度婚姻届を提出しますと、その地位は結構強固なものとなるのです。
 ユリが一気に女を失わなかったのは、結婚後も働いていた事と、子供がいなかったからです。
 しかし、今回はそのユリの女が、常務を招き寄せてしまったのです。
 ユリはその気が無かったのに、無理やり常務に女に戻されてしまったのです。
 常務に女の身体を開発されて、自分の奥に潜んでいた性に気付かされ、性の悦びを知りました。
 夫に申し訳ないと想いつつ抱かれる事に溺れたのです。
 そして・・・鏡の中のユリの身体は変っていました。
 記憶の中の自分の身体より丸みを帯び硬さの取れている肉体。
 男好きと言うのだろうか、しっとりとした肌・・・吸い付く様な肌に代わっていました。

 『ひぃぃ・・・嘘よ、うそ。』

 ユリが見たモノは、自分の股間からはみ出して見える紅い肉襞でした。
 慎ましやかな佇まいが、卑猥な身体に代わっていたのです。
 これでは夫にばれるのは時間の問題です。
 この日以来、夫の求めに何かしらの理由を付けて拒みました。
 しかし、夫の事を嫌いになった訳では有りません。こんな、身体になってしまった自分を許して欲しいのです。
 暗がりでなら真一に抱いて貰えます。暫くしてから、数度己のカラダの変化を隠して夫と抱かれました。
 その夜はユリの心にかってない温もりをもたらしたのです。
 朝になると消えてしまう幸せでした。
 常務の女に代わる時間帯です。己の肉体に心が負けてしまう時間です。
 銀行へ足を踏み入れると自然と淫靡な気持ちが湧き起こり、夫の事が頭から拭い去られてしまうのです。
 
 そして、思い知らされました。
 夫の事を忘れた振りをしている自分に。無理やり心を閉ざした自分の哀しみに。
 変ってしまった自分のカラダに、それが表れていたのです。
 己の罪深さをユリは、常務に自覚させられました。絶望がユリを襲っています。


【明日晴れるかな?】(30)

 常務の精液がユリの太股に垂れて来ています。
 あれから2度常務はユリの中に精液を注ぎ込みました。
 常務はユリに元気な子を産む事を約束させました。
そして夫を裏切る言葉を何度も言わせます。

 『・・・・あなた。・・・ごめんなさい。・・・ユリは、・・・あなたが知っているユリでは有りません。・・・』

 『・・ユリは、ユリは・・・ずっと真ちゃんを裏切っていました。』

 『愛する夫がいるのに、他の男に抱かれたいと思う女です。・・・一杯抱かれました。』

 『ユリは、お仕事をしていても、お家で家事をしていても、お風呂に入っても、真ちゃんにお弁当を作っていても、考えるのはご主人様のチ○ポ・・・・真ちゃんより大きくて、硬いご主人様のチ○ポだけです。・・・ごめんなさい。』

 常務はビデオに撮影しています。ユリはそれを承知で話しています。

 『・・・真ちゃんにお食事を作った指で、ご主人様のチ○ポを扱くんです。・・・ご主人様の精液を飲んだお口で・・・真ちゃんにキスするの。』

 『真ちゃんとセックスする度に、ご主人様の硬いチ○ポに焦れて啼くの。・・・ううん、真ちゃんに逝かされた訳じゃないの。ご主人様のチ○ポに啼かされているの。』
 ユリの瞳には霞が掛かっています。
 正気を保っているようには見えませんでした。

 【その言葉を家に帰って、旦那に話す事が出来るか?】

 『え?』

 『どう言う・・・事ですか?』
 ユリは一気に醒めました。
 常務のひと言が、槍のように胸を突き刺します。

 【俺の子供を産むのだろう? なら、きちんと旦那に話しておくべきだな。】

 『そんな・・そんな事出来ません。・・・そんな、酷い事。・・・・』

 今ではユリの顔色は真っ青です。先程までの熱い汗とは違う、冷汗が背中を流れて行きました。

 【これからも俺に抱かれたくないのか?俺に嬲って欲しいのなら、旦那にきちんと話せ。それから、俺の子を産む事もだ。自分の意思で産む事を決めたのなら、旦那の了解を取れ。・・・その時は一緒に立ち会ってやる。】

 『無茶です。・・・なんで、そんな危険な事を・・・アノ人に黙っていれば・・・判らないのに・・』

 ユリは自分で不実な事を言っている自覚は有ります。
 しかし、真一を失う事は、やはり嫌なのです。常務も真一もどちらも失いたくない。自分に都合のいい事しか考えていません。

 【ユリはふしだらな主婦だな。そんな女には、お仕置きが必要だ。・・・さぁ、支度をしなさい、ユリの家に行くぞ。】

 『嫌です。許して下さい。』
 【旦那に、妊娠した事を報告しないとな。真由美、お前も一緒に来い。】

 常務は有無を言わせずに、2人に命令しました。
 真由美は、一応躊躇って見せたものの、面白そうな顔で、役員室を片付け始めます。
 汗に濡れた拘束具、啼かされた大人の玩具などが綺麗に整頓されて仕舞われて行く様を、ユリは茫然と見送っていました。
 思考が追いつかないのです。

 【さあ、降りろ。真由美はチャイムを押して旦那を呼び出せ。良いか、三人とも室内に入れるように説明して置けよ。】


 「・・・と言う訳なんですよご主人。」
 居間のソファーで四人が向き合って話をしています。
 常務と真由美、真一とユリ。
 ユリの顔は帰宅してからも、真っ青のままです。俯き加減で夫の事も真由美達の方も見ようとしません。
 膝に置かれた手が堅く結ばれているだけです。
 
 【済みませんでした。常務に送って頂いて恐縮です。】
 夫の言葉にユリの身体が少し震えます。

 「いえいえ、構わないですよ、大事な身体ですからね。」
 常務も如才なく答えます。
 ユリは、何時夫に本当の事をばらされるのかと、気が気では有りません。

 「奥さんを大切になさって下さいね。彼女一人の身体じゃないのですから。」
 ひと言ひと言が、意味深に聞こえてしまうユリです。

 【・・・何も用意しておりませんが、どうかお祝いですから、お二人ともごゆっくりなさってください。】
 真一の言葉にうろたえてユリは声を掛けます。
 『あなた・・常務はお忙しい方よ。お引き留めしては・・・。』
 ユリは出来るだけ、暴露話を避けたい、なるべく先に引き延ばしたいのです。

 「あら、嬉しい。わたし、ユリ先輩のお手伝いをしますぅ。」
 ユリは真一に隠れた所で真由美の方を睨みます。が、真由美は素知らぬ顔で言います。
 「先輩、男の子ですかぁ?女の子?」
 【あっ、それ俺も聞きたいな。】
 真一も話に加わります。
 真一の屈託の無い声を聞くと、ユリは益々辛そうな顔で俯きます。
 夫に促され酒のツマミになりそうな簡単な料理を作りにキッチンに行って、ユリは正直ホッとしました。

 ボロニア・ソーセージとチーズの詰め合わせ、オニオン・スライスに中華ドレッシングを掛けたサラダ。
 真一用に買って有った鰹のタタキと、急遽冷凍マグロの柵を切り分けた刺身。
 アイスペールにロック氷。と、有り合わせで用意したユリが居間にそれらを運んで行きます。
 用意されていたアイリッシュ・ウイスキーの琥珀色の液体がグラスに注がれ酒宴が始まります。
 真一は余程嬉しいのか。何時もより早いペースでグラスを傾けていました。
 真由美が真一に注ぐ回数が増えています。
 ユリは夫の身体を心配して、酒を注がないので、真由美が代わっているのです。

 『真由美、余り飲ませないで。』
 ユリがそう注意した時に、トイレから常務が戻って来ました。
 常務は自分の席に戻らずユリの傍に腰掛けます。
 
 『ダメ。ダメです、しないで。』
 小さな声でユリが拒否しますが、常務はユリの腰に手を廻し、自分の方へ抱き寄せようとしました。

 『ヤメテ下さい。』
 ユリはどうしても小さな声になってしまいます。

 『あっ、うっ。』
 常務の左手がユリの片手を押さえて、自分の手をユリのブラウスの胸元に差し入れ、膨らみを覆いました。
 その手はゆっくりと、しかし大胆に乳房を揉みしだきます。

 『あっ、いや、ダメ。見つかる。』
 夫の様子を恐る恐る窺うユリの目には、真由美の膝でだらしなく眠る真一の姿が映るだけでした。
 
 【さぁ、脱げ。】
 夫の目の前で恥ずかしい姿になるように常務の命令が飛びます。


【明日晴れるかな?】(29)

 『あぁ、あ、あぁつ、ううん。あっあ。』

 常務の腰遣いは、ズンズンと、一定のリズムで刻まれています。
 決して速まる事をしないで行われる抽送は、マラソン選手のように決まったペースで確実に送りこまれます。

 『ひぁあ、あうん、あぁ。』

 ユリの腰から痺れにも似た感覚が、ゆっくりと全身に浸透し始めています。
 膣壁を拡げ切る圧倒的な膨張感、女肉から内臓を掻きだそうとするカリの張り。
 真一では絶対に得られない感覚に、ユリは脳髄を支配されてしまいます。
 女体を守ろうとして、真一との営みの時の倍以上の潤滑油・・愛液が噴き出しています。
 常務が抜き差しする度に、ヌプ、ヌプ。ジュプジュプ。音を立てています。
 グチュグチュ。ブチュ。押し込まれる時に空気が入るのか恥ずかしい音も混じります。

 『あぁぁ、恥ずかしい。・・あぅあぁ。』

 蕩け切った女肉がぴっちり肉棒に絡みます。
 絡みついた女肉は、常務のモノを決して離さない。無意識に強く締めつけていました。

 【うぅむ。】  

 さすがの常務も、締め付けのキツさに、つい呻き声を上げました。
 ユリはその声を聞いて、更に2度3度と締めあげてみます。

 【おぉぅ、いい。・・・ユリのオマ○コが・・】

 ユリは、嬉しげに顔を綻ばせました。
 常務に責められて、少し歪んだ顔が少し穏やかな顔に戻ります。

 【おぉう。・・そこを持って。】

 大型冷蔵庫の箱を同僚と一緒に持ち上げた真一は、配送用トラックに載せると直ぐに倉庫に戻りました。
 朝から、何十台目でしょうか、細い身体に鞭打ち運んでいます。
 もう直ぐ仕事が片付く見通しです。
 (久々に早く帰宅して、ビールを片手にユリと話がしたいなぁ。今日はユリねえも早く帰って来ると良いな。)
 ユリの笑顔が目に浮かびます。一緒に酌み交わす酒の美味しさを想い真一の顔から笑みが零れます。

 「なにニヤケているんだ、真一。ほら、さっさと運べよ。」
 同僚の叱責も耳には届きません。
 

 『あぁ・・常務・・・ご主人様・・・・もっと・・・激しく・・』

 ユリは蕩け切った女肉に激しい抽送を求めました。
 一定のリズムで祕肉を抉られる気持ちの良さも、長い時間続くと焦れて来ます。
 止めを刺して欲しいのです。
 思い切りヨガリ声を上げて絶頂を迎えたくて、身を焦がしています。

 『おねがい・・です。逝かせて・・・おねがい。』

 常務が腰の位置を少しずらしました。
 それだけでユリの感じる部分が変わりました。

 『あっ、ううん。はぁぁ。』

 それまでユリの子宮を押し退けて最奥部分まで達していた常務のチ○ポが、角度が変わったせいで、真正面から子宮口を押し込んだのです。
 内臓を押し上げられたユリは、苦しそうに呻き声を上げます。
 子宮口をトントン、トントンとノックされ硬い肉も少し綻びかけています。

 『あぁ、いや、赤ちゃんが・・・ダメッ・・赤ちゃん・・。』

 グリグリと亀頭が回転して、子宮口を拡げようとしています。

 『あぁ〜。』

 一際甲高いユリに悲鳴です。
 常務の亀頭が在ろう事かユリの子宮に嵌り込みました。
 普通では考えられません。
 医療器具なら子宮口を開く事が出来ますが、男が女の子宮を比較的簡単に亀頭で開ける筈が有りません。
 しかしこの時は偶然が作用しました。

 『あっひぃ・・あっあっ、そんな・・そんな。・・・嘘。』
 
 強烈な締め付けに常務も堪え切れませんでした。

【おぉお、出る。でる。ユリ、受け止めろ。】

 大量の精液がユリの子宮に直接注ぎこまれました。
 ユリはその瞬間身体をガクガク震わせて失神しました。
 暫くして常務が深い溜息と共にチ○ポを引き抜きます。
 開いた子宮口から羊水が漏れ出しチ○ポを汚しました。

 【ふぅ〜。】

 顔に冷たく清々しい水を叩きつけ、真一は一息入れました。
 帰りの支度を整え、店を後にします。
 夜11時を過ぎています。家まで車で移動です。
 ナビゲーションシステムをオーディオモードに切り替え音楽を流します。
 店で購入して置いたCDです。
 静かな音楽が車内に流れ出しました。
 助手席にタイトルの一部分が見えています。

【・・・・・胎教】


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プロフィール

HIRO(S)

Author:HIRO(S)
HN:HIRO(S)
年齢:秘密
性別:秘密
地域:関東地方
動機:gooで削除されたので。
一応フィクションとしてますが、ナイショ
写真は・・・・いけないんだぁ

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