回想録 ~二人の玲子~ 7

 3月24日(月)

玲子は私の家に通うことになった。

 『先生。洗濯物を出して下さい。』
 「あ、ああそう。でも、下着も有るから・・・」
 『何を遠慮なさるのですか?さあ、汚れ物を出して。』

 『先生お昼はパスタで良いですか?夜はすき焼きにします。』
 
 その日の夕食時。
 玲子は夕食を作るだけでなく、一緒に食事を取って帰る事になった。
 誰かと一緒に自宅で食事を共にするのは妻が死んでから一度も無い。
「すき焼きかぁ・・・10年振りかな・・・」
 ポロッと漏らした独白に玲子が反応した。
 『先生・・・お聞きしてもいいですか?』
 「え?何を」
 『先生はずっと独身ですか?・・・ご免なさい、立ち入ったことを・・・』
 「はは、バツ1ですよ。」
 戸籍の配偶者の欄が×(バッ点)で消されているのは同じだ。
 『ご免なさい。無神経で・・・主人にもいつも怒られてばっかり・・・お前はがさつで開けっ広げで・・繊細さの欠片も無いって。』
 「そうかな?そうは見えないけど・・・所で夕食まで食べて行って旦那さんは大丈夫なの?」
 その質問に顔を曇らせたが何も答えが無かった。それ以上聞けずに私は黙り込む。
 間が持てずすき焼きを頬張る。
 「うまい!」
 本当に美味しかった。・・・田中家の味・・・玲子の味・・・
 『良かった~。口に合わなかったらどうしようかと・・・関東と関西では味付けが違うでしょう?』
 「玲子さんは関西出身?」
 『違います。先生が・・・』
 「私も関東だよ。・・・・若しかして・・・」
 『えへ・・・唯言ってみただけ・・・ばれちゃいました?』
 又吹き出してしまった。


回想録 ~二人の玲子~ 6

 「これでどうです?」
 「良く判らないな?でも、貴方に不利には作っていないでしょうから、自分の部分だけを考えると・・・これで良いですよ。」
 私はどうでも良くなって答える。実際弁償そのものも真面目に考えていた訳でもないので、これで十分だった。
 「玲子はどうだ?」
 『・・・私は・・・あなたの仰るとおりに・・・』
 「じゃあ決まったな。」
 
 これから仕事だという田中が玲子を残し我が家を辞した。玲子は田中に役務の提供について打ち合わせをしておけ、と言われ残った。
 『それで・・あの・・先生』
 「では奥さん。あなたは本気でこんな契約結んだつもりですか?」
 玲子は困ったような顔で答える。
 『主人は本気です。・・・私は・・・』
 「私は弁償してくれなくても、構わないのですよ。元々その積もりも在りませんでしたから。でも、ご主人が無体なことをされたので、つい話しに乗ってしまっただけです。」
 『いいえ、それでは私の方が気が済みません。主人とは関係なく、契約通りにして下さいお願いします先生。』
 「その先生は止めてください。先生なんかじゃないのですから。」
 『でも、陶芸で賞をお取りになられた先生だと、昨日の古美術商が・・』
 「奥さん真に受けては駄目ですよ。」
 『玲子です。玲子と呼んでください。』
 「判りました玲子さん。無理に契約を守る必要は無いですからね。それだけは言って置きます。それと私は章雄です。」
 『はい、判りましたせ・ん・せ・い』
 二人は同時に吹き出してしまった。
 『明日から毎日来ます。掃除洗濯食事の用意の他に何かご希望が有りますか?』
 「・・・例えば仕事関係で美術出版会社と打ち合わせなんかするときに、秘書役になってくれる。とか・・」
 『はい、先生・・やはり先生とお呼びした方が良いですね。秘書も勤めます。役務の提供はサービスの事ですから、私がやると言えばそれがサービスになりますわ。先生はこれこれ出来るか?とお聞きになってください。なるべくお応えするように努力します。』


回想録 ~二人の玲子~ 5

  妙なことになったものだ。
 結局田中の希望を大幅に取り入れた契約になった。
 契約書には、
 『1、本契約において甲(私)は乙(玲子)と家事等の役務の提供に関する事項を定め、その定めた    事項について丙(田中)はそれを承認し、異議を挟めないものとする。』

 『2、甲は乙の提供した役務に関する報酬を、乙及び丙からの弁償金に充当するものとし、乙の役務   の提供期限は最大3年間最小1年間とする。』

 『3、乙は甲の求めることを極力叶えるよう努力しなければならない、但し、甲は乙に対し強制力を持   って要求したりさせたりしてはならない。』

 『4、丙は乙からの申し出が無い限り甲に対し異議を申し立てたり、対抗手段を講じてはならない。』

 『5、甲は丙の求めるところにより、乙の状況を報告しなければならない、但し乙がそれを拒んだ時   はこの限りではない。』

 大体こんなところだろうか、
 「田中さん、これで良いんですか?なんか、ご夫婦なのに乙と丙の関係が親会社と子会社見たいな関係で双方真に信頼しているように見えないのですが・・それと契約に齟齬が生じた時の事が無いのですが・・」
 「はい、これでだいたいOKなんですが・・・そうですね。罰則を決めておきましょう。」
 『6、甲がこの契約に違反した時は本契約は破棄され、弁済は終了するものとし、それまで乙により   提供された程度に応じ、報酬を支払わなければならないものとする。』

 『7、乙がこの契約に違反した時は本契約のうち役務の提供等について、契約期間を無期限に延期   させられることに同意し、併せて丙の庇護を離れるものとする。』

 『8、丙は甲と乙により交わされた役務の提供等に正当な理由無く又は乙の同意なく甲に対し異議   を申し立てた時は、契約違犯と見做し、乙による役務の提供は無期限に延長するものとする。以   後丙は甲乙双方に対し何の権利も有さないものとし、かつ、その時点において算出した弁済額    の全額を丙の責任において弁済するものとする。この場合、乙は丙とは無関係とする。』





回想録 ~二人の玲子~ 4

 「何をする!」
 思わず声に出してしまった。
 「申し訳ありません。・・・ですが、夫婦の事なので・・・」
 「それはそうでしょうが、そう言う事はそちらのご自宅でして下さい。私の家で女性に手を上げるのは遠慮して貰いたいですな。」
 私は田中が嫌いになった。
 女性に手を挙げた事ではない。私の自宅・・・私の領域で許可も無く勝手な振る舞いをしたこの男が嫌いになった。
 「失礼しました。」
 田中は悪びれた様子も無く、図々しい態度で更に言葉を繋ぐ。
 「先生、うちの玲子が勢いで言ったことは無かった事にして下さい。冷静な判断も出来ない状態で返事した事です。弁償について今改めて相談致します、どうかお願いします。」
 玲子の様子を横目で確認する。
 頬には手のひらの跡がクッキリと浮かび、目に涙を浮かべてじっと亭主のほうを見ている。
 その横顔が無き妻の姿にだぶる。
 ふと、思いついた。
 彼女をこれ以上の暴力から救い、私も得する方法で田中にやきもきさせる材料となること・・・
 「わかった、判った。分割にしてやろう。」
 田中はしてやったりという顔つきで私を見た。
 嫌な目つきだ、小ずるい感じが目に表れている、こちらが譲歩すればするほどふみこんで来ようとする目付きだ。
 「但し、それでは私が損してばかりだ。分割にする見返りに奥さんを家政婦としてここへ通わせて貰おう。」
 「え?」
 『え?』
 二人同時に声を挙げた。
 「ご覧のとおり、私は1人暮らしだ。ここ10年外食ばかりだから、家庭料理に餓えている。掃除しかり洗濯もハウスキーパーを雇っていた。それだと金も掛かる、なんせ月に20万円以上だ。それを奥さんの報酬と計算すれば大体1年半で5百万円分3年で1千万円分という計算になる。どうかね、田中さん?それで弁償は終わる。現金で返済なら半額は1週間以内、残りの半分は1年以内の返済で手を打とう。」
 私は思いっきり突き放した口調で提案した。
 すぐに田中は頭の中で計算しているらしい、ちらちらと自分の妻を見ながら考え事に没頭している。
 やがて計算が出来たらしい。顔を上げた。
 「判りました。では、妻を通わせます。」
 『あなた!』
 「俺がそう決めた、自分で蒔いた種だろう、自分で刈り取れるんだ、先生に感謝して勤めるんだ。」
 『・・・・はい。』
 「それで先生、時間は何時から何時までで、週何回?土日の場合は・・・時間外は?3年から少し縮まりませんか?」
 どこまでも計算高い奴だと思いながら、
 「そうだね。土日出勤は倍額分、残業時間分は5割り増しでどうかな?」
 なにやら会社の労使交渉みたいだ・・・
 「う~ん、土日はそれで結構ですが、祭日は3倍増し、10時以降の深夜勤務が有る場合は8割り増しでお願いします。」
 労使交渉に乗ってやるか・・・
 「8割り増しはでかい7割に負けてくれ。その代わり、宿泊の伴う夜勤になったら2倍にする。」
 宿泊と聞いて田中が嫌な顔を見せたが、
 「なかなか先生も交渉がお上手だ。仕方ない手を打ちましょう。」
 「おいおい、本当に宿泊させるつもりかい?私は冗談のつもりで話したんだが・・・」
 「いいえ先生こういうことは契約書にきちんと書いておかなければ、私達が不利になりますから・・」

 そんなこんなで1時間後には契約書なるものが出来上がっていた。
 「それじゃあ先生、ここにサインを。玲子お前もだ。」
 「これでよし、じゃあ原本は先生が、写しは私が保管します。・・・これで契約成立ですね。」


回想録 ~二人の玲子~ 3

 3月23日(日)

 玄関でチャイムが鳴っている。
 あの日以来尋ねる人も少なくなった我が家。
 人と合う時は仕事場以外は断っている。新聞の勧誘も郵便さえ拒否した。
 チャイムが鳴る事さえ忘却していた。
 しぶしぶ起き上がり玄関を開けるとそこには男性と一緒に昨日の女性が立っていた。

 「で、ご用向きは?」
 男性は田中と名乗った。昨日の女性は玲子・・・27歳だそうだ。
 「申し訳ありません。昨日こいつから事情を聞きまして・・・お詫びに伺いました。それと・・・」
 言いにくそうにしているので、先を促した。
 「それと・・なんでしょう?」
 突然男は土下座をし床に頭を付けんばかりに低頭した。
 「先生、お願いがあります。こちらが全面的に悪いことは重々承知の上で、弁償について・・・すべて分割でお願いできないでしょうか?・・・こいつが、半額はすぐに・・残りは分割で・・・とお願いしたようですが、私に相談も無く勝手に決めたことで・・」
 言いかけていた男は玲子を見るといきなり頬を引っ叩いた。
 ビシッ・・・平手打ちにしては重い打撃音。頬を打たれた玲子はバランスを崩し、ソファーからずり落ちた。


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回想録 ~二人の玲子~ 2

 3月22日(土)

 自宅で昼までゴロゴロして過ごした。
 独り身の気軽さ・・・死別してから規則正しい生活とは無縁になってしまった。40歳を過ぎてからの独りは応える。
 原因は・・・子供の死・・・
 不注意で子供を死なせてしまったと思い込んだ妻は、私が幾ら妻に「君のせいじゃない。」と訴えても、自分を責め続けた。
 最愛の娘を失い、悲しみに暮れる日々に耐え切れず自殺未遂を起こす。
 『ごめんなさい。ごめんなさい、美穂・・・あなた・・・ご免なさい。・・・私が・・あの時私が居たら・・美穂は・・・』
 「何度も言ったろう、君のせいじゃない、・・・美穂は・・・あの子は幼くして天に召される運命だったんだ。・・・悲しむより・・・二人の間に生まれてきてくれて・・数年・・一緒に居てくれたんだ、・・・私たちを幸せな気持ちにさせてくれたことに感謝して・・いつか、また美穂と3人で暮らすことを心の支えにして・・・残りの人生を・・二人で生きて行こう・・・馬鹿なことは考えるな・・・」
 精一杯、投げかけた積もりだった。
 でも、妻には届かなかった。
 【ご免なさいあなた。あなたの気持ちは嬉しいです。でも、美穂が・・・美穂が寂しがっている。・・・ごめんなさい、あなた。・・・先に美穂のところで待っています。・・・あなた・・ずっと幸せでした。・・・あなたと一緒になって・・・美穂を授かって・・・幸せでした。・・・でも、でもあの子の居ない世は私には耐えられません。・・・あなたが仰った・・・・いつかまた3人で暮らそうという言葉を頼りに・・・先に逝きます。
 あなた・・・愛しています。・・・さよならは言いません。・・・行ってきます。・・・待っています。・・・例えあなたがこの先誰と再婚しても・・・私はあなたの妻です。・・・ごめんなさい、こんな弱い私を許して。・・・あなたと別れたくない・・・あなたの再婚もいやっ・・・ああっ、身勝手な私を許して・・・愛しています・・・愛してます・・・】
 遺書はそこで途切れていた。
 10年たってもあの日の事を悔やむ。
 妻に掛けた言葉・・・余計なひと言・・・




回想録 ~二人の玲子~

 『もしもし・・・はい。・・・いいえ、違います。ええ、そうです。』
 私の電話に出た玲子のそっけない返事に、近くに玲子の旦那の姿が見えるようだった。
 「旦那が近くにいるのか?」
 『はい。』
 「明日昼2時に待つ、良いね?」
 『・・・・はい、判りました。』
 少しの躊躇いの後で玲子は承諾の返事をした。


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【妻の秘密・義妹の秘密】(32)

 痛いほど硬くなった乳首を、人差し指と親指で軽く摘まれコリコリされる。
 『あうう、いやっ。・・・摘まないでぇ~・・・・』
 反対の手は下から掬い上げるように乳房を揉みしだき、柔肉に食い込む指が半ばまでめり込む。
 ギュッギュッと音がするような気がした。それほど激しい愛撫。
 乳房はひしゃげ乳首はありとあらゆる方向に向く。
 優しい愛撫から一転した激しい愛撫に薫は翻弄されっぱなしだ。



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実は・・・

 今年の正月に筑波山に登って来ました
 それで、舞台をこの地にしました他意は有りません

 愛知もそうです。仕事で名古屋に行ったので・・・・

 大阪にすればよかったかな?東京でも良いし・・・
 固有の地名はリアリティの為に適当に設定しています。
 あくまでもフィクションだと思って下さい。そこに反映されている事に
 真実が有るかも知れませんが、肯定も否定もしません。

           7年目の誘惑プロットメモ

 

7年目の誘惑(6)

 名古屋から新幹線に乗り一路東京駅に向かう。東京駅から秋葉原まで山手線を乗り継ぎ秋葉原でさらにTXに乗り換えた。
 「ふうっ、結構時間掛かるな、でもこれ位離れていたほうが、後々都合がいいよな。家の近くじゃどんな噂されるか・・・・終点のつくばで良いんだよな?」
 健一は少し疲れた顔で、香織に呟いた。
 『科学万博の時に1度来たことがあるわ。大阪万博・つくば科学博・愛知万博って所かしら?確か筑波山が近い筈よ。』

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プロフィール

HIRO(S)

Author:HIRO(S)
HN:HIRO(S)
年齢:秘密
性別:秘密
地域:関東地方
動機:gooで削除されたので。
一応フィクションとしてますが、ナイショ
写真は・・・・いけないんだぁ

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