回想録 ~二人の玲子~ 完

 視界一杯に絵画が映し出された。
 100号・・・等身大の裸婦像
 号で言われると良く判らないが、縦 1620mm、Fサイズ横 1303mm Fとは、Figure(人物)の事で元々フランスでの規格を現す記号で、P(風景)M(海風景)とか微妙な差が有るらしい。
日本に導入された時に尺寸で表記しようとしたので、メートル法で表記すると中途半端な数字になってしまうそうだ。だから未だに号が使われている。
大きな絵だった。
 この間見かけた絵画とは違うもの・・・女性が1人だけで顔がはっきりと描かれているもの。
 『先生・・・この絵は・・玲子さん?』
 【そう・・・妻の玲子の肖像・・顔を良く見てご覧、何か感じる?】
 絵の中の玲子さんは少し横を向いている。
 『・・・まるで・・・そんな・・・』
 【似ている・・・君に・・そうだろう?】
 『はい。』
 双子の姉妹のように似ている、顔だけだけど・・・体系は彼女の方がグラマーでスマートだけれど・・・
 【初めて君を見たとき・・・ビックリしたよ。ひょんな事から我が家に来てくれることになって、毎日君が家に居る事に不思議な感覚を憶えた。】
 【キッチンに君が居る。洗濯物を干す君、テーブルで向かい合わせに食事する君。毎日見ていると妻が戻ってきたような感覚に陥る。】
 玲子は先生の告白に口を閉ざし、聞き入っていた。
 【だが君は田中の妻だ、私の妻の玲子ではない。夜寝る時何時も自分に言い聞かせて来た、明日は君にもうここへは来ないように言わなくては・・毎晩そう思った。】
 【朝になり君の笑顔を見ると・・・言えなくなる。いや、君にずっと居て欲しいと思う自分がいた。・・・・妻に似ているからか?君だからか?私は今も判らないんだ。その私に君は好意を寄せてくれる。妻の玲子の身代わりとして君を想っていたとしたらこんな失礼な事は無い。だから・・・この絵画を見て貰った。その上で君に考えて貰いたい。こんな私に身を任せるつもりなのか、止めた方が良いという積もりで呼んだ。】
 それは先生からのやんわりとした拒絶の言葉だった。
 恐らく先生は私を妻の玲子さんの身代わりとしか見ていない。あからさまに言うと私が傷つくと思って、ああ言う言い方をしてくれたのだろう。
 先生の心の中は今も10年前のままなのだ。
 割ってはいる自信が無い、玲子さんではない玲子を見て欲しいと言えない・・言いたいのに言えない・・言ったら今までの心地よい温い関係が壊れてしまいそうで怖い。
 (先生に愛されなくても良い、傍に居たいだけ。・・・嘘です。)
 (先生が奥様を想っていても構いません。・・・・・・絶対イヤ!)
 (先生の慰めになるなら抱いてください、・・・・・・玲子を愛して。)
 心の叫びと想いに押し潰されそうになる。
 いっそ、先生とお別れする方が先生のため、私もずつと楽・・・そう想い込もう・・
 やっぱりダメだ・・
今までずっと何事も自分が一歩引けば、周囲が収まる。そういう生活をしてきた、それが心の澱になり苦しんだ。
 相手が幸せに思ってくれるなら自分は不幸になっても構わない。そこまで思い詰めた事もある。
 田中と一緒になったのも、父母が喜んでくれるからだった。
 見合いの席で田中を見ても何も感じなかった。
 ああ、この人が自分の夫か・・・
 抱かれても・・・夫が悦んでくれるから・・どんな恥ずかしい事を要求されても拒否してはいけない。それが妻の務めだと言い聞かせてきた。
 帰ってこない夜・・・他の女の匂いのするシャツを洗濯する・・浮気をするのは自分が至らないからだ・・
 少しづつ溜まる澱・・・もう耐えられそうも無い・・・その切っ掛けが隣の綾子さんとの浮気だった。
 自分は生きてきて初めて自分の意思で何かを決めようとしている。
 流されてきた自分が始めて意思を示したいと想う・・・先生・・先生・・・
 先生・・・身代わりでも良いです・・いつか・・・玲子を愛してくれるなら・・・
いいえ
・・・二人の玲子です。・・・
・・・・私と奥様・・・


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写真は・・・・いけないんだぁ

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