【ドルチェ・アマービレ】(24)

 「奥様とお嬢様・・・本当に、うぅ」
 厳しい顔の三船さんの目頭に涙が滲んだ。
 奥様と私似ているのかしら?きっとそうよ。だって三船さんが泣いているもの。
 教授が私を構ってくれるのは、奥様に似ているから・・・少し寂しいな。私は私よ、と言いたいけれど、言い切る自信が無いし・・・。
 「まるで似てらっしゃらない。旦那様の好みが変わったのか?」
 ちょっと三船さん!。ボソボソ独り言でしょうけれど、しっかり聞こえているわ失礼ね。
 「奥様みたいに美人じゃないし、背も低い。胸もペッタンコだし、お尻だけがデカイ。」
 (あんた、ケンカ売っているでしょう、綾歌さんを怒らせたら怖いよ。私は地元じゃ有名なレディース・・・アッ、これは嘘だからね。みなさ~ん言葉の勢いよ、勢い。綾歌違うもん。お嬢様だもん。族じゃないもん。)
 「お嬢様、誰とお話ですか?」
 『え?』
 またやってしまった。妄想。(妄想:現実と想像の区別がつかなくなること。)
 この際だから聞いてみよう。でも、聞けるかな?私シャイだから。
 『教授は結婚されていたのですか?何時?お子様は?なれ初めは?』
 矢継ぎ早に聞いていた。
 「お嬢様・・・・お顔の印象と違いますな。大人しそうなお顔なのに。奥様にそっくりです。」
 三船さ~ん、結局似ているの?似ていないの?どっち。!

 「亡くなられた奥様は、当時28歳でした。」
  「奥様は拓人様と同じ年齢です。何と言いましたか、そうソリストをやられていたとかお聞きしました。」
 「あるコンサートで拓人様が、楽屋裏の控え室に挨拶に伺ったときに出会ったのが初めてだそうです。」
 「拓人様は大部屋の控え室、奥様は個室だったそうで、同じ年なのに歴然とした差がついていることが悔しくて仕方が無かったと当時私にも仰られておりました。」
  
 【よろしくお願いします。美剣拓人と申します。】
 楽屋伺い・・・ゲスト・ソリストへ団員が挨拶に出向く。良くある事だが拓人は気が進まなかった。
 施設で育った時、その施設へ時々裕福な婦人達が慰問に来た。
 彼女達の好意に疑問を挟む訳ではない。が、どうしてもそこにある種の感覚が生じている事に気付かされる。
 例えると、動物愛護に熱心なハリウッド女優やヨーロッパの貴婦人にも共通する感覚、具体的には「鯨の保護」、鯨は哺乳類だから、鯨の仲間のイルカの知能の高さを理由に、食用にしている国々を非難攻撃する。あれと同じ様な物である。
 ある女優などは日本に映画のキャンペーンで来日して記者会見を開いたが。その席で声高に日本を日本人を非難した。記者が牛を食べる事を指摘しても動揺せず、アレは家畜だから。の一言で片付けた。
 日本人の感覚では、牛も鯨も同じ哺乳類である。その動物を食用とすることに感謝し、命の尊さを認めた上で、一つも無駄にしないように利用した。その感覚からすると、このハリウッド女優のように前日に神戸牛のしゃぶしゃぶに舌鼓を打ち、当日の記者会見にミンクのコートを着て鯨の捕鯨を野蛮だと糾弾する感覚が判らない。
 自分達のコミュニティ・文化に属する物の考え方には賛同し、異質な文化・異質なコミュニティには表面的に賛同したような振りをし、或いはこの人達はこうなのよね、と言うような上から目線でモノを見、可哀想な人達と哀れむだけなのだ。
 決して自分と同じ人間・人種とは認めない。その感覚を慰問の婦人達にも感じるのだ。
 そして、その婦人の隣で綺麗なドレスを着て、施設のオルガンを蔑むような目を向け演奏した少女の顔が重なる。

 『へえ?タクト?面白い名前ね。あら、同い年なの?どこ?ふ~ん。あそこもいい大学よね。指導教授は?ああ彼?うちの卒業生らしいけど知らないなぁ。お願いが有るんだけど団員の皆さんにミスしない様に言って貰えないかしら。あなたもゲストでしょうけど、この団は、最近レベルが落ちたのよね。市民参加が増えたでしょう?ろくに勉強もしていない人がちょっとボイストレーニングを受けただけで出演するのよ。ママさんコーラスと間違えているわ。ねえ、そう思うでしょう?』
 鼻持ちならない女に成長していた。
 この女に思い知らせてやりたい。この女を滅茶苦茶にしたい。沸々と沸き上がる暗い情念が拓人を駆り立てる。
 【判りました伝えておきます。因みに私も団員なんですよ。】
 言い放ち部屋を後にしようと振り返った。その時腕を引っ張られた。
 『ごめんなさい。本番前で緊張して心にもない事を言いました。この通りなんです。』
 差し出された掌は汗で濡れていた。その子の唇は乾いて潤いが乏しい。さっきのは強がりか?
 『拓人さん。わたし、あなたを知っています。ずっと以前から。・・・ゲストになったのもあなたにお会いしたかったから。わたし・・私あの施設に居たんです。あなたが入所して直ぐに養父母に引き取られました。養母に連れられて施設に行くのが楽しみでした。』
 【・・・まさか。・・・君があそこに居たなんて。】
 『私はあの場所に捨てられていたんです。あそこでずっと育ちました。あのオルガンは私のたった一つの楽しみでした。そして憎しみの種でした。』
 拓人とその女性・・・綾歌は万感の思いを込めて施設の名を呼んだ。
 『聖母マリアと子供達の園』
 『私の名前は施設で付けられました。本当の名前は判りません。身元を確認するモノは何もなかったそうです。ただスコアの歌詞の切れ端に綾の文字が書き加えて有るモノが傍に有ったそうです。それで綾と歌詞の歌を合わせて綾歌と。綾でも良かったらしいのですが施設には綾がもう一人既に居たそうで、楽譜に歌詞が書いてあったので歌を付けたと学園長が言っていました。』
 その日から急速に親しくなったそうです。三船さんの言葉に返事も出来ない。
 奥様の名前が・・・・・・綾歌。


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