【ドルチェ・アマービレ】(25)

 『拓人さん。何とか二階A席の最前列が取れたわ。全体が見えるからこの方が却って良かったかも。』
 【うぇA席かぁ・・・おれのバイト代ふっ飛んだなぁ。綾歌、おれD席でも構わなかったんだけど。】
 『駄目よ。良い音を聞きたいのならせめてB席まで。ピアノの手元を見たいのならA席でしょう。オペラグラスを貸すから良く見てね。』
 神戸文化ホール:1990年5月12日・13日:プッチーニ作『ラ・ボエーム』
指揮:スールベック・ミリボイ 演奏:関西フィルハーモニー交響楽団
合唱団:神戸シティオペラ合唱団・神戸市混声合唱団・神戸児童合唱団
周辺は楠木正成を祭った湊川神社や神戸大学、市民中央体育館など文教施設が有る地区だ。
 これが二人で初めて旅行して観たオペラ・・・29歳の事であった。
宿泊は少し離れた山、有名な六甲山の六甲山ホテルにした。
 100万ドルの夜景眺望の良い部屋。おまけに夕食も夜景を見ながらと言うプランにした。拓人は泣いた、夜景が素晴らしかっただけでなく、宿泊料金が大人一人1万7千円からと言う値段に。
 今の拓人には無謀な旅行プラン、しかし、綾歌との初めての旅行、そして初めての夜になる筈だった。
 オペラは期待通りだった。
 第1幕:詩人のロドルフォとお針子のミミ、有名なアリアのある、そして主人公の二人が恋に落ちる場面。
 ロドルフォのアリア「Che gelida manina 冷たい手を」。
ミミのアリア「Sì, mi chiamano Mimì 私の名はミミ」。
 
暗闇の中、先に鍵を拾ったロドルフォは、それをポケットに入れ、再び鍵を探すふりをして、ミミの手を握る。このとき歌われるロドルフォのアリア「冷たい手を」と、続けてミミが自分のことを歌うアリア「私の名はミミ」の2つのアリアで、二人は強烈に引きつけられ恋に落ちる二人
休憩時間、ロビーの隅で飲み物と軽食を摘む人々を避け俺たちは感想を述べ合っていた。
 『私達の場合はアリアじゃないけど、【私の名前は綾歌】と歌ったようなものだったわね。』
 【そうだっけ?】
 『ん、もう!男の人って大事な事を直ぐに忘れてしまうのね。良い、拓人。女はね、色々覚えているものよ。初めて逢った時のこと、初めての告白、付き合って1ヶ月後、2ヶ月後・・・全てが記念日なの。』
 【ごめん】
 それしか言えなかった。事実忘れていたからだ。つき合って1ヶ月後の日付が記念日になるなんて思わなかった。3ヶ月とか半年、1年なら何とか記念日と意識出来るが、夢中で話しこんだ日々を覚えてはいなかった。
 『じゃあ、私の誕生日覚えている?』
 マズイ、綾歌の誕生日?・・・え~と、何時だっけ?うぅ・・え~と。
 【教えて貰っていないような・・確か乙女座・・・とは聞いたけど。・・】
 完全に綾歌を怒らせてしまったと、拓人は首を縮めて返事を待った。
 『当たり。教えていないもの。』
 ふう~助かった。でも何で教えても無い事を俺に聞くんだ?試しているのか?
 【どうして?】
 『だって、聞いてくれないんだもの。拓人、私の事本当に好き?』
 【好きだ。】
 『本当にホント?』
 【大好きだ。愛している。】
 『私も拓人の事大好き☆』
 女性の心は判りませ~ん。
綾歌の顔が微笑んでいる。小悪魔の様な眼が俺を見詰めている。
【綾歌・・・】
その眼に釣られてkissしようと、綾歌を抱き寄せた。
 『ストップ!拓人。ほらみんな見ているわよ。さあ、トイレに寄って中に入りましょう。』
 その気にさせておいて、この小悪魔が!
 良い雰囲気になったと思ったらこれだ。何度綾歌にはぐらかされたか知れない。
 この俺が、未だに綾歌とkissもしていないなんて(T_T) 自分で自分が信じられない。どこか屈折した俺は今まで女と付き合ってこれほど長く純愛を貫いた事が無かった。
 逢ったその日にセックスするのも1度や2度じゃない。それどころか金を持っていそうな有閑マダムを誘惑して、落とすのは得意なはずだった。
 大学に入る資金を貯める積りで、近づいた俺に有閑マダムはすぐにカラダを開いた。
 高校生の分際で人妻に近づき、虜にさせて金を引き出す。ジゴロまがいの事をしていた。そうやって、音楽を続けていた。
 施設に居る俺に手を差し伸べてくれる人は居なかった。
 施設のオルガン・・・例のオルガンを友として育った俺。 誰の助けも友人さえも居なかった。
 そんな俺が唯一打ち込めるもの。音楽。
 しかしそれさえも俺を裏切ろうとした。
 全ては金。金の無い俺は良質なレッスンを受ける事が出来ない。音楽教室の窓から漏れる音を聞こうとしても防音だ。
 音が恋しくて街をふら付いた。聞こえて来るのは、歌謡曲に演歌。ジャズが聞こえれば御の字だった。
 肩に触れたやつをぶちのめし、金を巻上げた。その金を握り締め目に付いたバーのドアを開けた。
 無性に酒が飲みたかった。飲んだ事も無い酒を。
 琥珀色をしたそれは俺を打ちのめした。カウンターで酔いつぶれた俺を拾ってくれた奴がいた。
 そのバーで弾き語りをしていた女。名は・・・・忘れた。
 後で聞いたら離婚して間もない30代の女。
 その夜、女の部屋で目覚めた。狭いシングルベッドに二人して寝ていた。女は目覚めていた。
 いや、寝ずにずっと俺を見詰めていた。俺はその女を組み敷き貫いた。
 『あぁ、坊や。だめ、いけないわ。』
 ふん、この女も期待していた癖に。俺は乱暴に女を扱い、何度も何度も射精した。
 女は最初は冷静に俺をあしらう積りだった。
 しかし、若さゆえの暴走を止める事は出来なかった。乳房を握り締め、肩に噛みつく。尻を叩き、太股を抓る。身体中を痣だらけにして女は呻く。
 『あぅう、坊や・・・イイ・・もっと乱暴にして・・感じる・・お姉さん感じるの、坊やのおちん○ん硬い。こんなの初めて・・して、もっとして。・・・オマ○コぐちゃぐちゃにして。もっとよ、もっと。』
 体力に任せ奥まで突く。ガンガン突いた。手加減などしなかった。女を感じさせようとも思わなかった。
 ただ貫く。子宮を壊そうと突いた。
 汗が飛び散り、女の愛液がシーツをグッショリ汚す。激しい情交に女は何度も気を遣った。俺はそれ以上に女の中に射精した。
 気が付くと女はオマ○コから血を流し失神していた。
 おれも体力の限界だった。女に覆い被さったまま寝ていた。
 
 コーヒーの匂いで目が覚めた。インスタントじゃないコーヒー。
 女がマグカップを差し出し、キッチンの方へ歩いて行く。
 その歩きはヨロヨロとした動き幾分がに股だった。スグにベーコンを炒める音が響く。冷蔵庫から卵を3個とり出し、そのうちの2個をフライパンに落とす。
 『坊や出来たわ。』
 ベーコンの匂いに誘われテーブルに付く。
 目の前にベーコンエッグの皿が運ばれた。。俺は息をつく暇も無く平らげコーヒーをガブ飲みした。
 【帰る。】
 一言だけ告げて立ち去ろうとした。
 女は引き留めもせず、金を差し出した。俺は黙ってそれを受け取り部屋を後にした。
 外は眩しかった。
 俺の心はポッカリ穴を開けていた。それでも街の雑踏に足を踏み入れた。
 
 そんな俺が、綾歌の前では借りてきた猫、いや、その気はあるのだがどうして良いのか判らず途方に暮れる男になった。
 コイツの前では自分を偽れない。綾歌の前では純な心を取り戻していた。
 『拓人・・早く行きましょう。第2幕が始まるわ。始まってしまったら中に入れないのよ。判っているでしょう。』
 【お~悪い悪い考え事していた。】
 『どうせ、私にどうしたらkiss出来るかでしょう?』
 【ピンポ~ン!良く判ったな。】
 『見え見えじゃない。さあ行きましょう。』
 そう言うと綾歌は唇を俺の唇にそっと押し当て、さっさと歩き始めた。
【待てよ~綾歌。もう一回。な、な。】
『ダメ!』
 コイツは小悪魔だ。綾歌、君はなんて可愛いんだ。


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写真は・・・・いけないんだぁ

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