『教授・・・昨夜のは・・・・プロポーズ?・・・じゃないですよね?』
綾歌はドキドキしながら教授の答えを待っている。
多分教授の目には赤い顔をした私が映っている。
意識しだすと止まらない。教授の眼の仕草、一つ一つが意味を持ったものだと思い込んでしまう。
教授が椅子に腰を下ろす。私も釣られてフロアーにペタンと座り込んだ。
教授がピアノの蓋を開ける。
え?これはどう言う意味だろう?教授の事だからエッチな意味だと思う。脱ぐの?やっぱり上半身を脱ぐのね・・・・
教授が鍵盤のカバーを剥ぎ取る。
恥ずかしい・・・下半身も・・・生まれたままの姿になるのね?
私は恥ずかしくて堪らなかったけど、教授の仕草に従った。
教授が私の方を向く。
あ、あぁ・・・恥ずかしい。
【・・・何で裸なのですか?綾歌君・・】
教授が不思議そうに聞く。
『え?だって・・・教授が・・・』
【ふぅ・・・綾歌君また君は妄想しましたね。ここの所妄想がエスカレートしていますよ。】
『でも、教授・・・昨夜の事は・・・永久就職のお話は・・』
【は?何の事ですか?昨夜?私は昨夜帰宅しませんでしたよ。】
『嘘です。・・・お庭のあの家屋での事は?・・・教授と聖さん・・三船さんとの事は?』
【庭の家屋?聖?三船?どうしたのですか?庭に家屋は有りませんよ、見て御覧なさい。】
うそ?なんで?どうして?
『じゃあ、あれは何です?きょ、教授が聖さんを・・・三船さんの前で嬲って居たのは?縛ったり、叩いたり・・・聖さん・・あんあん、気持ち良さそうに・・』
訳が分からなかった?私は鮮明に覚えているのに、教授は恍けているのだろうか?
私の携帯が鳴る。表示画面を見ると美歌からだった。教授に断りを入れ携帯に出る。
「やっほー。綾歌・・元気している? あんたドジったんだって?昨夜教授に聞いたわよ。あつそうそう、教授にお礼言っておいてくれる?昨夜教授にレッスンして頂いたんだぁ。深夜なのに皆感謝していますって。」
『え?どう言う事。教授と深夜レッスン?』
ますます戸惑う私。
「夏休みの最後にオーディション受けるって、前に話したよね。教授が気に掛けてくれていて、受ける者全員に特別にレッスンしてくれたのよ。その上激励会と称してお酒をご馳走になったの。今夜だけ特別だと仰って。お酒で喉を傷めるような飲み方だけはするなと釘も挿されたけどね。色々お話しして下さったわ。オーディションの審査ポイントとか、掌に人の文字指で書いて飲む話とかね。でも笑っちゃうのよ。人の文字マジックで書いてしまった事が有るんだって。」
美歌との通話が終わった時には眩暈を感じた。
自分がおかしくなったと思った。
【綾歌君は性的な欲求不満を感じているのだよ。思い通りにならないか、抑えているも事が有っても解放出来ないからか、少なくとも抑圧された欲求を脳が感じて妄想を見せたのだろうね。】
抑圧されたもの・・・思い通りにならない事・・・・一つだけ有るのかも知れない。
『・・・・教授・・・・1度で良いんです。・・・・・綾歌を・・・・私を抱いて下さい。私を・・・・教授の・・・奥さんに・・・して・・・下さい。・・・・』
言ってしまってから、自分の抑圧された思い・・・願望が何なのか、自覚した。
【綾歌君・・・・】
『な~んて!教授ぅ・・・冗談ですよぉ。・・・』
あれ??可笑しいな?・・・目から汗が・・・
【冗談・・・・ですか?・・・ガッカリですね。私は本気にしたのですが・・・女性からプロポーズされたのは初めてで、凄く嬉しかったのですが・・・ん・・むぅ。】
綾歌が教授に飛びついて、もつれる様に二人は床に転がった。
仰向けに倒れた教授の上に四つん這いで圧し掛かる綾歌。綾歌の両手は教授の両肩を押さえ付け、腹部に跨っている。
『バカバカ馬鹿!教授のバカ。・・・私の気持ち分かっているくせに。』
矛盾している。
自分で冗談と言っておきながら教授を責めている不条理。
ダメダメ・・・こんなの綾歌じゃない。・・・綾歌はもっと真面目でひょうきんで可愛い女の子なのに。・・・・
嫉妬や恋に狂う女だったの?
先輩に憧れていたのに、こんなオジサンを好きになってしまったの?
だって・・・教授は大人で・・・お世辞にも先輩よりも格好が良いとは言えないけれど・・・でも・・・・格好が良い・・・私にはそう見える。
教授の傍にいるとハラハラドキドキの連続で・・・とてもエッチで・・・・気持ち良くて・・・色々な事を教えてくれて・・・・何より私を大切に扱ってくれる。・・・好き。好き。好き好きすき、だぁ~い好き。
【綾歌君・・・・声量を増やすには体重の増加も致しかた無い事ですが・・・できれば今は・・・ダイエット中の方が良かったと思いますよ。】
意地悪な所も・・・・好き。・・・・・優しい意地悪だから。
教授の煩い口を私の唇で塞いでしまう。
暫くそのままで居た。
夢中で教授の唇を貪る。両手は教授の頭を抱き締め髪の毛をグチャグチャにしてしまう。
一息つく為に唇を離す。二人の唇の間に銀色の糸が繋がっている。・・・・詩的な表現をしてみる。綾歌・・・余裕が有るのね。自分で自分を褒める。
【綾歌】
教授が呼び捨てにする。あの妄想と同じだ。もしかしてこれも妄想?一瞬疑ってしまう。
【こら!おイタは駄目ですよ。・・・定期演奏会のオーディションに合格してからこの続きをしましょう。それまではお預けです。】
『そんなぁ~教授ぅ・・・』
【私の夢は綾歌を世界の歌姫にする事。そして、夢の続きは・・・・その歌姫を私のモノにする事。と言ったら納得しますか?】
『約束ですョ教授。・・・私を歌姫にする事も私を教授の・・・教授だけの女にしてくれる事も。してくれないと・・・綾歌泣いちゃうから。』
もうまるで恋人同士の会話だ。
それが嬉しかった。
【だから・・・綾歌を抱く訳にはいかないのです。一人前の歌姫になるまで、少なくてもオーディションに合格するまでは・・・君はお子ちゃまですから。私はお子ちゃまは抱かない主義ですからね。】
抱かれる為に頑張る。・・・・真面目に考えたら凄く恥ずかしくて、女の慎みに欠ける行為だと思う。でもその時は、ううん今でも悦びは有っても後悔も恥じらいも全然起きない。むしろ・・・・やめた。
これ以上教えてあげない。だって・・・大切な想いだから。私の、私だけの大切な大切な想いだから。
秋・・・・・私はステージに立って居た。 歌姫の卵として、ステージの中央にいた。
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