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【like an angel of the devil】(3)~円の場合~

 『マスター。カクテルで無くても良いの。何か記念になるお酒無いかしら。・・・こうして4人揃って飲めるのも何時になるか判らないから。』
 円が少し寂しそうに笑う。
 【そんな事は無いでしょう?何時でも逢えますよ。】
 事情を知らないマスターが慰めの言葉を言う。
 円が小声で囁く。
 『彼がね・・・・嫌がるの。【女は家庭に居るべきだ。働くなんて僕は好きじゃ無いな。】・・・父がね、工場を経営しているの。この不況で苦しいの。・・・・・彼のお父様が・・・』
 円の顔が憂いに翳る。
 【どうぞ。】
 マスターがスコッチいスキーを差し出す。
 【ロイヤル・ハウスホールド1707記念ブレンドです。】
  ブキャナン社が英国王室御用達として製造しているお酒です。昭和天皇が皇太子時代に訪英した際にプレゼントされ、大変気に入られた様子に特別に日本だけに輸出が認められた。一般に飲まれるのは日本だけかもしれないお酒で、本国でも容易には飲めない。
 【この1707記念ブレンドは大英帝国誕生300周年を記念してブレンドされたものです。】
 円の口の中で複雑なフルーツの風味が拡がった。その後スモーキーさが加わり、やがてスモーキ―さが薄れて行くと、オランジュの甘い風味が、口にする者を惑わす程の官能的な味わいとなって、オレンジの風味が口の中を覆い尽くしたままフィニッシュへ向かった。
 『美味しい。』
 『私も今後ハウスホールド・・・・になるのよね。・・・・わたしに相応しいわ。』
 円の目が心なしか潤んでいる。
 その時、barの柱時計が0時を告げる。
  『お代わり。』
 マスターがシェイカーを振るう。
 『なによ、これ。』
 一口飲んだ円の声に怒りの成分が含まれていた。
 【シンデレラ。】
 カクテルグラスの中には、オレンジジュース。レモンジュース。パイナップルジュースがシェイクされて入っていた。
 つまりノンアルコールのカクテルだった。
 【12時を過ぎました。お嬢様はお家へ帰る時間です。】
 『・・・もっと酔いたいの。ねえ、マスター夢から覚まさないで。』
 【夢を見るのには人生は長過ぎる、愛を育むのには人生は短過ぎる。】
 『やだ、くさいセリフ。それに、意味も不明だし。』
 【あれ?決まりませんでした?おかしいなぁ?これで円さん、堕ちるかと思ったのに。】
 『冗談、マスターになんか、堕ちませんよ。』
 落ち込んだ心が少し軽くなった。
 彼を嫌いな訳ではないし、家から1歩も出られない訳でもない。ただ独身の頃の様に自由に時間を使えないだけ。
 『ね、今の本当にわたしを口説いてくれたの?』
 【さあ?、40過ぎの男が、若いお嬢さんに相手にされると思いますか?】
 マスターが冗談めかして笑う。
 『シンデレラの魔法は12時を過ぎると解けるの。そこからは貧しいただの少女よ。』
 【青少年保護条例違反で捕まるかな?】
 『わたしは女よ。青少年じゃないわ。』
 傍で聞いている人がいたら、吹き出してしまいそうなセリフ回しに円は愉しげに笑いだした。
 『ありがとうマスター。』
 マスターは花梨に呼ばれてカクテルを作りにその場を離れて行った。
 そしてまた外へ出て行く。
 
 カチィ~ン。
 【ほぅー。】
 白い輪がゆらゆらと辺りに漂う。
 【・・・あそこに。】
【テレビ塔のイルミネーションが見えるだろう?あの隣のマンションの7階777号室。】
 マスターが後ろも見ないで、鍵を差し出した。
 円はそれを受け取ると黙ってbarの中へ入って行く。
 マスターは煙草を思い切り吸いこむと暗い夜空に向かって吐き出す。
 【マズイな。・・・・夜が長過ぎたな。】
 
 部屋の中は殺風景だった。
 壁際に置かれた武骨なパイプベット。
 スチールで出来たスケルトンの収納ラック。
 壁に掛けられたアンディ・ウォーホールのシルクスクリーンのマリリン・モンローと窓際の観葉植物だけが存在を主張している。
 この部屋以外の部屋には生活臭が無い。
 台所とこの居間が彼の空間だ。
 メールが入る。
 【棚の中段に木箱が有る。開けて飲んでいてくれ。】
 たった1行の短いメール。
 箱の上段中央に四角く囲まれた【BUSHMILL】その下に【MALT】と21.
 北アイルランド産のお酒。
 アイリッシュ・ウィスキー、シングルモルト。
 世界で1番古い醸造免許を赦された蒸留所のモノだった。
 口当たりがとても滑らかでスコッチの様なスモーキ―さが、無いのに甘い。
 またメール着信音。
 【あと5分。鍵を開けておいてくれないか。】
 また一口啜って、玄関に向かう。
 ドアの前に立つのと同時にチャイムが響く。
 覗き穴から確認してドアの鍵を開けた。
 目の前にバラの中に白いマーガレットをあしらったブーケが差しだされる。
 キュートな花束。マスターの顔からは想像もつかないプレゼント。
 【ようこそ。like an angel of the devilへ。】
 どちらの意味だろう?
 天使か悪魔か?
 自分の立場を考えると後者の方かな?
 この部屋に入った時から円には羽が生えていたのだろう。
 二人の唇が重なり合うまで3秒も掛らなかった。
 マスターの唇にはホープスーパーライトの煙草臭い匂いが染みついている。
 煙草の匂いが嫌いな円だが、今は気にならない。


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