回想録 ~二人の玲子~ 4

 「何をする!」
 思わず声に出してしまった。
 「申し訳ありません。・・・ですが、夫婦の事なので・・・」
 「それはそうでしょうが、そう言う事はそちらのご自宅でして下さい。私の家で女性に手を上げるのは遠慮して貰いたいですな。」
 私は田中が嫌いになった。
 女性に手を挙げた事ではない。私の自宅・・・私の領域で許可も無く勝手な振る舞いをしたこの男が嫌いになった。
 「失礼しました。」
 田中は悪びれた様子も無く、図々しい態度で更に言葉を繋ぐ。
 「先生、うちの玲子が勢いで言ったことは無かった事にして下さい。冷静な判断も出来ない状態で返事した事です。弁償について今改めて相談致します、どうかお願いします。」
 玲子の様子を横目で確認する。
 頬には手のひらの跡がクッキリと浮かび、目に涙を浮かべてじっと亭主のほうを見ている。
 その横顔が無き妻の姿にだぶる。
 ふと、思いついた。
 彼女をこれ以上の暴力から救い、私も得する方法で田中にやきもきさせる材料となること・・・
 「わかった、判った。分割にしてやろう。」
 田中はしてやったりという顔つきで私を見た。
 嫌な目つきだ、小ずるい感じが目に表れている、こちらが譲歩すればするほどふみこんで来ようとする目付きだ。
 「但し、それでは私が損してばかりだ。分割にする見返りに奥さんを家政婦としてここへ通わせて貰おう。」
 「え?」
 『え?』
 二人同時に声を挙げた。
 「ご覧のとおり、私は1人暮らしだ。ここ10年外食ばかりだから、家庭料理に餓えている。掃除しかり洗濯もハウスキーパーを雇っていた。それだと金も掛かる、なんせ月に20万円以上だ。それを奥さんの報酬と計算すれば大体1年半で5百万円分3年で1千万円分という計算になる。どうかね、田中さん?それで弁償は終わる。現金で返済なら半額は1週間以内、残りの半分は1年以内の返済で手を打とう。」
 私は思いっきり突き放した口調で提案した。
 すぐに田中は頭の中で計算しているらしい、ちらちらと自分の妻を見ながら考え事に没頭している。
 やがて計算が出来たらしい。顔を上げた。
 「判りました。では、妻を通わせます。」
 『あなた!』
 「俺がそう決めた、自分で蒔いた種だろう、自分で刈り取れるんだ、先生に感謝して勤めるんだ。」
 『・・・・はい。』
 「それで先生、時間は何時から何時までで、週何回?土日の場合は・・・時間外は?3年から少し縮まりませんか?」
 どこまでも計算高い奴だと思いながら、
 「そうだね。土日出勤は倍額分、残業時間分は5割り増しでどうかな?」
 なにやら会社の労使交渉みたいだ・・・
 「う~ん、土日はそれで結構ですが、祭日は3倍増し、10時以降の深夜勤務が有る場合は8割り増しでお願いします。」
 労使交渉に乗ってやるか・・・
 「8割り増しはでかい7割に負けてくれ。その代わり、宿泊の伴う夜勤になったら2倍にする。」
 宿泊と聞いて田中が嫌な顔を見せたが、
 「なかなか先生も交渉がお上手だ。仕方ない手を打ちましょう。」
 「おいおい、本当に宿泊させるつもりかい?私は冗談のつもりで話したんだが・・・」
 「いいえ先生こういうことは契約書にきちんと書いておかなければ、私達が不利になりますから・・」

 そんなこんなで1時間後には契約書なるものが出来上がっていた。
 「それじゃあ先生、ここにサインを。玲子お前もだ。」
 「これでよし、じゃあ原本は先生が、写しは私が保管します。・・・これで契約成立ですね。」


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