「これでどうです?」
「良く判らないな?でも、貴方に不利には作っていないでしょうから、自分の部分だけを考えると・・・これで良いですよ。」
私はどうでも良くなって答える。実際弁償そのものも真面目に考えていた訳でもないので、これで十分だった。
「玲子はどうだ?」
『・・・私は・・・あなたの仰るとおりに・・・』
「じゃあ決まったな。」
これから仕事だという田中が玲子を残し我が家を辞した。玲子は田中に役務の提供について打ち合わせをしておけ、と言われ残った。
『それで・・あの・・先生』
「では奥さん。あなたは本気でこんな契約結んだつもりですか?」
玲子は困ったような顔で答える。
『主人は本気です。・・・私は・・・』
「私は弁償してくれなくても、構わないのですよ。元々その積もりも在りませんでしたから。でも、ご主人が無体なことをされたので、つい話しに乗ってしまっただけです。」
『いいえ、それでは私の方が気が済みません。主人とは関係なく、契約通りにして下さいお願いします先生。』
「その先生は止めてください。先生なんかじゃないのですから。」
『でも、陶芸で賞をお取りになられた先生だと、昨日の古美術商が・・』
「奥さん真に受けては駄目ですよ。」
『玲子です。玲子と呼んでください。』
「判りました玲子さん。無理に契約を守る必要は無いですからね。それだけは言って置きます。それと私は章雄です。」
『はい、判りましたせ・ん・せ・い』
二人は同時に吹き出してしまった。
『明日から毎日来ます。掃除洗濯食事の用意の他に何かご希望が有りますか?』
「・・・例えば仕事関係で美術出版会社と打ち合わせなんかするときに、秘書役になってくれる。とか・・」
『はい、先生・・やはり先生とお呼びした方が良いですね。秘書も勤めます。役務の提供はサービスの事ですから、私がやると言えばそれがサービスになりますわ。先生はこれこれ出来るか?とお聞きになってください。なるべくお応えするように努力します。』
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