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【like an angel of the devil】(3)~鈴の場合~

 ストレートに聞けば良いのに、答えを聞くのが嫌で迂遠な聞き方をしてしまった。
 マスターはホープスーパーライトに火を付けて間をおいてから答えた。
 【彼女は・・・ふぅ~・・酒に酔い・・ブルーな夜を過ごした。と、思う。】
 『バカな・・』
 【・・・そう。・・・以外に彼女はバカだった。つまりはそう言う事だよ。・・・婚約者が居るのに、別の男に抱かれる・・・馬鹿な女さ。・・・他人から見れば、な。】
 白い煙と紫煙が混じった空気にマスターの姿が霞む。
 【円の心の中は、彼女にしか判らない。知りたければ彼女に直接聞けば良い。】
 確かにその通り。・・・・その通りだけれど・・・聞けない。
 この人は・・・何時もそうだ。
 正論を吐いて毒を浴びせる。
 
 【・・・シャワーを浴びて来なさい。】
 煙草を吸い終わったマスターが徐に言う。
 私は・・・それを聞くと操り人形のように昔の部屋に向かった。
 そこには、着替えが置いて有った。・・・昔のまま・・・
 『・・・まさか・・・』
 戸口でマスターが言う。
 【お帰り。】
 酷い人だ。 
 円の事も、私の4年も【お帰り】の一言で済ませてしまう。
 人の気も知らないで・・・
 違う。・・・知っているのだ。・・・知っていて言う。
 いいえ。知っているからこそ言うの。私を苦しませる為に。
 『・・・ただいま。』
 そう返すと、マスターの前で衣服を脱ぎ棄てる。
 『・・・美味しそうになったでしょう?』
 悔しいから、そう言ってマスターの前を通り抜け浴室に向かう。
 【程良く熟成した。・・・テイストするのが愉しみだ。】
 ワインを開けるのが愉しい。と、でも言うかのように言う。
 シャワーを頭から浴びながら、ボンヤリ考える。
 結局、円の事はうやむやになってしまった。・・
 ・・・部屋・・解約しなきゃ。・・・いつ、引っ越そう。・・
 馬鹿だ。・・・・円の事を責める資格ない。
 自己嫌悪に陥っているとマスターが浴室の外から肥を掛けて来た。
 【卵は幾つ食べる?】
 ・・・まったく、この人は・・・何時も同じメニュー
 ばか。ばか。べぇ~だ。・・・でも・・愛おしい。
 やっぱり、この人が欲しい。・・・
 『2つ。ベーコンはカリカリ。それと、浅炒りのアメリカン。』
 
 乾いたふわふわのバスタオルを首に掛け片端で髪の毛の水滴を取りながら、マリリンに会いに行く。
 床に直置きのお皿から良い匂いが立ち昇っていた
 『マスター・・・』
 【早く食べろよ。冷めちまうぞ】
 美味しい。
 変らない味・・・・食事が済むと私は自分の部屋に行った。
 その部屋は当時と変っていない。
 家具の引き出しを開ける。
 ランジェリーもそのまま・・・やたらセクシーなデザインのモノ。
 1994年イギリスで設立された「Agent Provocateur」
 イギリス、フランス、アメリカ、カナダ、オーストリア、ドイツ等13カ国に30店舗を展開する高級ランジェリーブランド。
 ここのCMはかなりインパクトが有る。
 例えば、2009年のCM「Love Me Tender」の内容は次の通り。
勝負下着でキメたのに、彼氏が仕事で相手をしてくれないため、ランジェリー姿の上に直接コートを羽織って残業中の彼氏の仕事場に押しかけてストリップショーまがいのことをして誘惑し始める・・・かなりHな内容。
(ちなみに興味のある人はYouTubeにそのCMがUPされているから確かめてね。)
その当時の自分には相当大人びたモノ・・・
それから、それより大人し目のトリンプ「セサ」これは国内メーカーだけに安心して着けられる。
 久し振りに身に付けてみる。え?・・・恥ずかしいけどAgent Provocateurの方。
 鏡に全身を写しポーズを決める。
 ふと思い立ちクローゼットを開ける。
 ・・・・有った。
 コートを取り出しCMの様に着こなして見る。
 悪戯心が芽生えた。
 部屋を出て居間に向かう。マスターは静かにお酒を飲んでいた。
 101プルーフのバーボンウィスキー。
 七面鳥が描かれている。
 ロックアイスがグラスに当たり涼しげな音を奏でる。
 マスターに近づくと踊りながらコートのベルトを解きランジェリーを見せ付ける。
 さらにセクシーな踊りで腰を揺らす。

保守あげ

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【like an angel of the devil】(2)~鈴の場合~

『マスター。ねえ、マスター』
 マスターがカウンターの反対側から近づいてきた。
 『お替り。』直ぐに目の前に差しだされる。
 【さっきは緋色だから今度は青色だよ。】
 出されたお酒は【フローズンブルーマルガリータ。】テキーラベースのカクテル・・・
 ブルーキュラソーとライムジュースが美しい海色を、クラッシュされたアイスが夏を連想させる。
 私は思い切ってマスターに尋ねた。
 『今夜の予定は、マスター。』
 【・・・そんな先の事は判らないな。】何時ものセリフだ。
 『またぁ、もう詰らないんだから、マーロウを気取るのは止めてよ。』
 鈴は少し膨れっ面を見せる。
 【悪いな、今夜は先約が有る。】
 マスターはグラスを磨く手を止めて私を見詰める。
 【今夜は駄目だが、明日以降ならいつでも空いて居る。何か用か?】
 マスターの鈍感さにため息を付きたい。
 『そろそろ私の4年を返して欲しいの。』
 【鈴の4年】
 『そう、卒業してから今までの4年間。』
 【何のために】
 『判っているくせに・・・ずっと放っておいて。』
 【疼くのか】
 『・・・・。』
 【鈴はあまり好きじゃ無かった。と、記憶しているが。】
 マスターの声には何の感情も込められていない。
淡々と事実を言った、そんな態度。
 『・・・成熟した女が・・・少女の頃に覚え込まされた・・・教えておいて・・ずっと・・・
放って置かれて・・・。』
 鈴は途切れ途切れに、赤くなった顔を更に紅く染めて言葉を紡ぐ。
 『・・・4年。・・・4年も構って・・・4年も放って・・・。』
 【・・・それでも明日だ。明日素面の時に・・】
 マスターはそれだけ言うと私の前から去る。
 円の注文をこなし、煙草を吸いに裏口から出て行くのが見える。
 
 
 【今日は会社を休んだのか。】
 マスターは一応聞いてくる。しかし、私の答えを聞いて居るようには見えない。
 私はここに居る。だから休み。マスターの前に有る一つの事実。それだけで良いみたい。
 【浴びるか。】
 そう一言言うとマスターは、私の眼の前なのに一糸纏わぬ裸体を晒して浴室に向かう。
 レディの前なのに・・・
 相変わらずこの部屋にはマリリンしかいない。
 マスターが浴室に消えて、手持無沙汰になった私は、懐かしいこの部屋を隅々まで立ち廻る。
 『あっ。・・・・・』
 私は一つの部屋を開けて立ち竦む。
 ・・・変っていない。
 この部屋は昔のまま。・・・
 そう・・・この部屋から4年前に私は・・・逃げ出した。
 この部屋で手折られ、この部屋で飼われ、この部屋から逃げ出した。
 私の血と汗と・・・愛液に塗れた部屋。
 可憐な無垢の少女が、たおやかな身を破瓜で散らし、従順な人形となり愛欲に溺れ、そしてマスターの居ない夜に怯え慄き、耐えきれずその苦しみから逃げだした。
 逃げ出して数カ月でマスターの店に舞い戻り、今日のこの日が来た。
 『・・・あれ?』
 ベッドの脇に何かが有る。・・・・鈴の眼に違和感を伝える。
 『・・・これって。』
 マスターが浴室から戻って来た。
 『・・・円・・・。』
 悋気を含んだ硬い声で、鈴がマスターを刺す。
 【あぁ】
 だからどうした。とでも言いたげにマスターは返事をする。
 『昨夜ね。・・・円を・・』
 マスターは何も言わない。
 『円は・・・結婚・・・知っていて・・・』
 【昨夜はお祝いの酒宴じゃ無かったのかな。俺はそう記憶しているが。】
 澄まして答える。
 『何故ここに円のiイヤリングが落ちているの。』



【like an angel of the devil】(1)~鈴の場合~

今夜は円と花梨の結婚祝いの酒宴
 4人は何時ものようにbarに寄る。
 鈴は複雑な顔で、円をからかうマスターの横顔を見詰める。
 「マスター。マンハッタン」
 ついに声を掛けてしまう。
 元々この店は私が最初に見つけた店だ。
 大学のサークルの大先輩の店。
 本当はオーナーと呼ぶのが筋なのだろうが、私達はマスターと呼ぶ。
 お金が無くなると此処に転がりこんでしまう。
 「鈴、これ運んで。」
 マスターは私達が居ると遠慮なくこき使う。
 「ほれ、鈴の好きなマンハッタン。」
 必ずマスターは用事を頼んだ後にこのお酒をサーブしてくれる。
 
 「マンハッタンって都市の名前がそのまま付いているのね。レシピ教えて。」
 【バーボン、スィートベルモット、アロマティックビター、これをステアしてマラスキーノチェリーをカクテルピンで刺してグラスの底に沈めて終わり。】
 【何故このお酒を鈴に出すか?だって、マンハッタンってネイテブの言葉で『酔っ払い』と言うからさ。】
 「べぇ~だ。酔っ払いじゃないですよぉ。」
 マスターは何時も私をからかう。
 
 「マスター私就職が決まったよ。」
 目の前にブルームーンが置かれた。
 【おめでとう、鈴。いや、これからは鈴さんと呼ばないといけないな。】
 青い月が私の瞳を写しだす。
 「綺麗な淡い紫色のカクテル。レシピはマスター?」
 【シン、スミレのリキュール「パルフェタムール」レモンジュースを使用します。】
 中甘口のショートカクテル。
 「美味しい。」
 マスターがニヤリと笑う。
 何か裏が有る。マスターの笑いには皮肉が付き纏う。
 「あ~何かあるぅ。」
 【Once in a Blue moon 極めて稀な事を意味する言葉です。鈴の就職は極めて稀な珍しい事。だからブルームーン。】
 「ひど~い。」
 マスターが声にならない笑いを堪えて身悶える。
 【社会人になった鈴さんを早く見たいな。】
 
 入社式、同期は15人女性は私を含め4人。
 円、花梨、瑠奈
 みんな直ぐに打ち解けた。
 歓迎会・・・全体で軽い立食パーティー形式で行われた。
 「う~ん、物足りないよねぇ。」と円
 「もう一杯欲しいなぁ。」花梨も言う。
 「誰か二次会場に適当なところ知らない?」瑠奈も言う。
 (2次会ねぇ。あまり教えたくないけどなぁ。・・・かと言って・・・)
 「しょうがないなぁ~。私のテリトリー荒らさないでよね。」
 3人を案内して店の前に立つ。
 「ねぇねぇ、鈴。なんか、渋くてステキな所じゃない。何で知っているの?」
 「内緒、さっ入ろう。」
 【いらっしゃいませ。】
 マスターの声が響く。
 スツールに座るや否やカクテルが4人の目の前に現れた。
 目に染みいる様な深い赤
 【チェリーブロッサムです。】
 「まだ頼んでいないのに?」
 【最初の一杯は店からの奢りです。召し上がって下さい。】
 「じゃ、遠慮なく。せ~の、乾杯!」
瑠奈勢いよく掛け声を放つ。
【皆さん鈴さんのお友達ですか?】
 マスターが尋ねる。
 「ええ、職場が同じですの。」
 「そー、なんかウマが合うのよねぇ。」
 「所でマスター、お店の名前ですけど・・・」
 【あぁ、私はマドンナのファンで、そこから付けました。と言っても1曲だけのファンですけど。】 
 (え?知らなかった。4年も通っていて知らないなんて・・・)
 【どうぞ】
 次にサーブされたのは、ペパーミントグリーンのお酒。グラスの底にはレッドチェリー、グラスの淵には白い砂糖。
 【青い珊瑚礁です。】
 「・・・・マスター聖子ちゃんのファン?」と瑠奈が聞く。
 1杯目がチェリーブロッサムで今度が青い珊瑚礁・・・ベタだマスター・・
 鈴は我が事のように赤くなる。


 「ねえ、鈴。」
 「鈴?鈴?」
花梨が呼んでいる。
 目の前のカウンターにはスカーレット・レディ
・・・・・・・・
・・・・・・
あれは4年前の光景・・・・・
 そっかぁ・・
 この店には私の8年間が在る。愉しい4年と苦しい4年。


【like an angel of the devil】(7)~円の場合~

「ねぇ」
 円はマスターの唇からホープスーパーライトを取り上げる。
  
 「ん?」
 「・・・・どうして抱いたの?」
 「そうだなぁ、強いて言えば・・・・・・君が求めているから、俺が抱きたいから」
 「・・・・私が?・・・求めている?」
 「・・・訂正。・・・俺が抱きたいだけか・・・」
 マスターはそう答えると煙草に火を付けて深く吸い込む。
 吐き出した煙は白い筋になり、窓の外に消えて行く。
 窓の外は白々と明かりが拡がっていた。
 午前4時・・・
 マスターがクローゼットの扉を開けた。
 下段の引き出しから真新しいシーツを取り出し、円に手渡す。
 「シャワーを浴びて来る。取り替えておいてくれ。」
 
 「・・・・本当にもう男の人って・・・」
 肌を合わせると男は皆、この女はもう俺のモノ、と思うのかしら?
 遠慮が無くなるモノらしい。
 仕方が無くシーツを拡げる。だって、汗臭いシーツは厭だから。
 浴室からシャワーの音が微かに聞こえる。
 身体に纏う汗が気になる。
 (あ~私も早く浴びたい。)
 ドアに手を掛けていた。音も無く開け中に素早く入り込む。
 マスターは髪の毛をシャンプーしている。
 そっと近づく。目を瞑っているから私に気が付かない。
 マスターはこちらに背を向け立ったままシャンプーしている。
 髪の毛を掻き回す度に身体が揺れる。
 マスターのオチン○ンも揺れる。
 (ふふっ、男の人のって・・・何か間抜け!)
 キュぅ
 「え?なんだ?」
 マスターが慌てる。
 そりゃあ、大事な息子が・・
 ギュぅ・・・
 「おゎ」
 握った手に力を込める。もう片方の手を添える。
 マスターの亀頭を包むようにニギニギする。
 茎の部分は絞る様に刺激を与え、亀頭は触れるか触れないかの微妙なタッチで摩る。
 「こ、こら!」
 ボディーソープを手の平に掬いマスターの男に塗す。
 滑りの良くなった胴を上下に扱く。
「ひぁ」
 シャワーの湯が頭上から降って来る。泡まみれの湯が澄んだ湯に代わって行く。
 シャワーのノズルが向きを変え私の頭から全身に掛けられる。
 逃れようとする私をノズルは外さない。
 「ちょっ、やめて、もうヤメ」
 湯の奔流は止まり顎が掴まれた。上向きにされた途端にマスターの分厚い唇が降って来る。
 「んんっん」
 
 チャポ~ン。
 浴槽は畳み1畳分は有る。二人が入っても少し余裕が有る。
 円は背中をマスターに預け寛ぐ。
 円の首筋をマスターの舌が這う。
 「あぁあん、あんあん」
 円の声にエコーが掛かっている。
 
 「お腹空いたろう?」
 風呂から上がったマスターが冷蔵庫を開けて、円に言う。
 「うん」
 
 ジュゥー、パチパチ
 油の爆ぜる音が響く。フライパンにはベーコンが敷かれている。
 マスターはアルコールランプの火を付ける。
 フラスコの水が小さな気泡を湛え揺らいでいる。
  「何個?」
 卵の数を聞かれたのだ。
 「1個」
 ジジュウ・・・ 卵の焼ける匂い。
 マスターはスプーンでベーコンの油を掬い卵の黄身に掛ける。何度も何度も。
 「マスターったら、ここでもマーロウなのね?」
 「このやり方しか知らなくてね。」
 フラスコの湯がロートに吸い込まれて行く。
 全てが上がりきった。マスターは竹のへらで軽く掻き回す。
 アルコールランプを脇にどかし蓋をして火を消す。消した後一度蓋を開け直ぐに閉める。
 ロートのコーヒーがフィルターを通してフラスコに降りて来た。
 
 「運んで。」
 マスターが2枚の皿を円に差し出す。
 コーヒーのマグはマスターが運ぶ。
 シルクスクリーンの下がテーブル代りの床。
 床に直置きの皿が2枚とマグ
 「どうぞ」
 そう言うとマスターはコーヒーを口に含んだ。
 「やっぱり、ベーコンエッグはこの作り方に限る。」
 マスターの言葉に円が反応する。
 「朝食は何時もこれなの?」
 「ああ、同じだ。」
 「偶には別の食べ物を食べたいと思はないの?」
 「俺は臆病でね。変ると怖いんだ。」
 笑いながらマスターが答える。
 「1人で居るのも?」
 「そう。俺には女性を抱く事は出来ても、女性を愛する事は出来ない。フレンドにはなれても恋人・夫婦にはなれないよ。」
 「寂しくない?」
 「淋しいさ。・・・だから人肌が恋しいんだ。」
 「・・・・どうするの?私を?」
 「どうもしない。これからも今まで通り。」
 「・・・逃がした魚は大きいわよ。」
 「また、釣るさ。」
 「ふ~ん。来るものは拒まず去るモノは追わず・・・・か。」 
 
 円が一口食べる。カリカリのベーコンにサニーサイドアップ
 
 身繕いをした円が立ち上がる。
 窓際でホープスーパーライトを咥えるマスターに近づく。
 煙草を取り上げ口づけする。
 「帰ります。」
 そう告げると円は玄関に向かって足を進める。
 マスターは円を見ずに、紫煙を吐き出す。
 
 円が立ち止まる。振り返ると、スクリーンのモンローがスカートの裾を押さえている。
 「・・・鍵・・・カギよ・」
 マスターの手が振られる。
 ガチャン  目測を誤った鍵が玄関のドアに当たり落ちる。
「電話するわ。」
言い残して円が立ち去る。
 
 円は結婚し退職した。3人の友人と中々逢えない。
 何時しかテレビ塔の近くのマンションのドアを開けて中に入っていた。
 モンローが微笑む。
 アイリッシュ・ウィスキーの酒精を解き放つ。
 
 携帯が鳴る。
 「後1分」
 急いで玄関に向かう。
 着いたと同時に玄関のドアが開く。
 円が囁く。
 【ようこそ。like an angel of the devilへ。】


【like an angel of the devil】(6)~円の場合~

 淫唇に熱いモノが押し当てられた。
 (・・あぁ・・いよいよ・・・)
 円はやっと求めていたものが与えられると思った。
 
 しかしそれ以上の動きは無かった。
 淫唇に宛がわれたモノは全く動かない。
 円の淫唇と窒口だけがヌメヌメとした動きを見せる。
 マスターのモノを飲み込もうと唇をパクパクさせる・・・そんな気がするほど淫唇が蠢いている。
 熱い果汁も溢れる位、淫唇から漏れている。
 (・・お願い・・・は、はやく・・・)
 (・・意地悪しないで・・・)
 それは唐突に淫唇から離された。

 円の耳にクチュクチュ卑猥な音が聞こえている。
 円の女が奏でるいやらしい音色。

 膣中の壁が掻き擦られ押し広げられる。
 「あぁあん・・・あぁつあぁつ・・・あぁ・・」
 絶え間なく漏れる声。 
 スーと膣中の圧迫感が遠のいてしまう。
 「あぁ・・いやっ・・・だめっ・・・」
 マスターの指が消えて行く。
 円の女は逃すまいと無意識に膣を窄めた。
 
 (いやっ・・・また・・・・ヤァ・・ヤァ・・・)
 円の身体は限界を超えてしまっている。
 彼とのセックスではこんな事は一度も経験した事が無い。
 
 (限界よぉ・・・Bさんゴメンね・・)
 円は心の中で婚約者に詫びた。
 先程まで頭の隅に追いやっていた彼。
 唐突に思い出して唐突に詫びる。

 「・・・・して・・・ください。・・・」
 円は薄らと目を開けてマスターを見上げる。
 マスターはニコリともせずに円を見下ろしたままだった。
 その顔がだんだん近づいてきた様な気がした。
 いや違う。
 近づいて来たのだった。
 円の唇が塞がれ、マスターの舌が円の歯茎を舐める。
 大量の唾液が流し込まれる。
 コクリ   円の喉が鳴る。
 円は躊躇いもせずに、マスターの流し込む唾液を嚥下した。
 乳房をギュっと掴まれ揉まれる。
 片方の手は額から下に髪を滑らせ撫でられている。
 マスターの熱いモノが還って来た。
  淫唇に宛がわれたモノははち切れんばかりに膨らんでいる。
 (あぁ・・やっと・・・)
 マスターのモノが少しずつ円の膣中(なか)に押し入って来る。
 押しては引き、引いては押す。
 動きは緩慢な程である。
 ・・・彼なら・・・直ぐに挿入する筈である。
 しかし、マスターは苛立つ程緩慢な動きしかしない。
 「あぁっ・・・もっと・・・」
 思わず催促の声が上がる。
 
 何故マスターの動きが緩慢だったのか。
 円は直ぐに思い知らされた。
 (え?)
 明らかに彼と違う・・・
 マスターのモノは亀頭の張りを過ぎた所で盛り上がり円の壁を拡げた。
 節くれだった樹の瘤を想わせる形状・・・・・
 ごつごつとした感触。
 「ひっ」
 「あう・・あぁ・・・きつい・・」
 圧倒的な膨張感。
 円の膣壁はマスターのモノによって隙間なく塞がれ、狭い通路を無理やり押し広げられる。
 「ふっふぅ・・はっ・・・はっぁ」
 少し痛みが和らぐ。
 多分・・・・出産の時に行う呼吸の様に短く、吐き出すような息遣い。
 マスターは急がない、ゆっくりと馴染ませるようにゆっくりと押し入って来る。
 「うぅぅ」
 円が低く呻いた。 円の秘宮のドアが叩かれたから。
 (うそ?)
 円は信じられない。彼とのセックスでは一度も無い事で有る。
 (あぁ・・・恐い・・・)
 何処までも貫かれる恐怖・・・
 円は知らない。マスターが人並み外れているのではない。自身のカラダが起こしている現象を・・・
 円の身体はマスターによって散々焦らされ、果実で言えば熟して落ちる寸前まで追い込まれていた。
 成熟した女性として、自然の変化で円の子宮が受精の為に降りて来ていたのである。
 ほんの少しの位置の違い。
 小さな違いでも身体は敏感だ。
 「あっあっあ」
 「はぁはぁはぁ、あっあっあ、あうぅ、ああ」
 「あぃやぁ・・あっあ」
 「ふぅんあぁ」 
 「ひぃあぁ、ああ」
 室内に円の呻き声が響く。
 マスターは相変わらず緩慢な動きで円の膣中を往復する。
 決まった動きでは無く不規則な抽送。
 その間にも片手で髪を撫でられていた、
 慈しむように愛でるように・・・
 恐怖は既に過去のものとなり、身体の奥深くから漣の様に快感が拡がりを見せる。
 「うぅぅ、はぁぁ、ぅぅ」
 漏れ聞こえる呻き声は意味をなさない。
 「あー、あーっあん、あー」
 円の声が少しづつ大きく高くなる。
 マスターの動きが段々速く大きくなる。
 円の全身が汗でビショビショに濡れていた。
 マスターと接している肌が高熱を発している。
 「あぅああ、あうん。」
 いきなり円のカラダが引っ繰り返される。
 お尻に熱いモノが当たる。 尻肉を左右に開かれ円の女が晒される。
 マスターの身体が蔽い被さる。
 後ろから貫かれている。マスターの両手が脇から潜り込んでくる。
 乳房が揉まれ乳首が潰される。
 「あうぅ、あっあっ、あー」
 マスターの腰がお尻に当たり音を立てる。
 耳朶を甘噛みされた。
 「ふぅん、はぁ~」
 40男の執拗な愛撫に円のカラダは蕩々に溶け出してしまう。
 フワッ・・・・
 円の上半身がベッドから離れて行く。
 掴まれた腰が上がる。
 バランスを取る為咄嗟に両手で支える。
 「あぁいやぁ恥ずかしい・・・」
 四つん這いの格好でマスターに貫かれている。 尻朶を高く掲げさせられている。
 マスターの手が伸び、後髪が束ねられ引かれる。
 カウボーイに御せられる裸馬の様に・・・・・・
 「ああああぁ」
 (あぁこんな格好なんて・・・恥ずかしい・・・こんな・・・こんな)
 彼は決して円をこの様に扱わない。
 (マスターは・・・私の事・・・)
 次から次へと襲ってくる快感の波の狭間で円は途切れ途切れに思考する。
 愛している訳ではない。
 マスターも私を愛している訳でもないだろう。
 玩具・・・
 (まさか・・・そんな・・・)
 一夜限りのアバンチュール。
 その筈である。円もそう思っている。それでも愛情の欠片が欲しい。
 今だけはこの瞬間、円はマスターの・・・
 後が続かない。考えてはいけない。


【like an angel of the devil】(5)~円の場合~

 愛液に塗れて息付く亀裂を更に唇で挟み拡げられた。
 包皮で隠れていた亀裂の先端が、露わになる。
 円はマスターの熱い息を身に感じて身悶える。まだ半分覗いただけの陰核をマスターの舌が襲う。
 舌先を尖らせて陰核と包皮の間を舐められた。そして下から掬い上げるように舌先を動かされる。
『あぅうん。あぁ』
下半身に痺れるような刺激を受けて、円が喘ぎだす。
『ヒッヒィ。』
亀裂の下の窪みから透明な滴が溢れ出て来た。
それを舌先で掬い取ったマスターは、更に舌を陰核に擦り付けた。
『ハッ、ふッぅん。ハァ,アァ。』
マスターが突然円から離れた
『あぁいや。』
円は続けて欲しくて啼いた。
ベッドから離れたマスターがブッシュミル・モルト21年物のボトルを下げて円のもとへ戻る。
 円が、横臥しても形よく隆起しているて双丘を寄せ谷間を作る。そこへアイリッシュ・ウィスキーを少量注ぎ込んだ。
猫が舐めるようにワザとピチャピチャ音を立てて舐め取る。
『あぅ、冷たい。あぁ、熱い。』
アルコールの冷たさと舌の熱さが、円の官能を刺激する。
 その間にも下半身はマスターの指の腹でグリグリ捏ね回されている。
 バターを溶かしたようになった円の股間はベタベタに溢れた愛液を垂れ流し、シーツを濡らしている。
円はこれまで感じた事の無い境地に陥っていた。
彼の愛撫はマニュアル通りで、マスターの様に予想が付かない動きはしなかった。
円の脳髄では、先程から危険信号が高らかに鳴っている。
今までの愛撫で十分感じている。早くトドメを挿して欲しかった。
それよりも、これ以上続けて愛撫を受けたら、円は自分の身が制御できなくなるのを恐れた。
円の奥深く、自分でも気が付いていない奥底で、官能の炎が燻り続けていた。
何か切っ掛けでも有れば噴き出してくるコロナの様に紅蓮の中で時を待っていた。
 『マスター・・・わたし・・・


 『・・・・・・・』
 『・・・・・・・・・・・』
『わたし・・・欲しい・・・・』
 数瞬の躊躇いの後、円は呟いた。
 マスターは一言も発せず円の秘密の花園・・・女の園にゆっくりと指を挿入して行く。
 遅々とした動き。
 円は更なる刺激を求めて身体が反応していた。閉じ掛かっていた膝が少しずつ開く。
 マスターの程良く肉の付いたお腹が両膝を割って円に密着する。
 谷間のアイリッシュ・ウィスキーが無くなるとまた満たされる。
 ピチャピチャと舌の奏でる音が部屋に木霊する。
 マスターは円が求めても無視するかのように、先程からの動きと然程変わらずただ円の女を男の体重で押さえただけだった。
 (どうして?)
 彼なら私が求めたら直ぐに・・・
 マスターは・・・40男は焦らしも好きなの?
 ふと上から見下ろすマスターの視線に気が付く。
 顔が近づいてくる・・・・額と額が合わされる・・・・
 
 優しくキスされた。
 
 マスターは卑怯だ。 ・・・・・こんな時に・・・優しいキス・・・
 下半身に新しい刺激・・・もう1本指が挿入される。
 少し鍵型に曲げられ、円の女の壁を引き掻く。
 第二関節が同時に反対側の壁を押し遣る様に擦られる。
 押し当てられるだけだった唇が舌先でこじ開けられた。
 マスターの舌が歯茎を擦る。
 
 彼はこんな事をしない。
 (円・・・どうして・・・・彼と比べてしまうの?)
 自分でもどうして彼と比べてしまうのか判らない。
 今夜一晩のアバンチュール・・・・その筈でしょう?
 円は戸惑いながら自身に言い聞かせる。・・・・今夜だけ・・・・

 「あっ・・」
 
 マスターの指が急に円の奥に挿し込まれた。
 「あぁ・・あっ・・・あぁ」
 マスターの指は、窄まったり開かれたりしながら奥へ奥へと円を侵食して行く。
 決して円を傷つけないように優しくそして力強く膣中を掻き回す。
 「ヒッああうん、ああ。・・・・はひぃぃい。・・・・ふぅっんはぁ・・あっあ・・」
 円は身体の中から波紋の様に拡がる痺れに嬌声を上げた。
 マスターの指は膣中(な  か)を蹂躙するが、マスターの雄(ち)魂(○ぽ)は一向に円の中に挿入(はい)って来ない。
 (・・・そんな・・・かれなら・・・もう・・・)
 付合っている彼氏ならもうとっくに円の膣中(な  か)に収まっていた筈だ。
 彼との性交渉は平均30分位・・・それで満足していた。
 女性誌や男性週刊誌の煽り記事の様に、「イク」事も知ったと思っていた。
 それで十分満足していた。何より心が満たされていると感じていた。

 違った。

 あれは戯事なのだ。・・・・・
 女は好きな人に抱き締められるだけでも充分満足すると聞かされてた事が有る。

 間違いだった。・・・・・

 愛が無くても、好意だけでセックスする事が出来る。
 そして・・・・
 心とカラダが離れてしまう事を暴露された。
 「あうっ・・あぁ・・あぁ・・あぁぁ」
 「ひぃ・はぁぁ・・ひぃひぃい・・・ふぅうん・・・だめ・・・ダメ・だめ」
 円の全身が汗に濡れ腰が浮く。
 浮いた腰がガクガク震える。
 「円・・・顔を上げて。」
 マスターの胸に埋めていた顔を少し上げた。
 いつの間にかマスターの頸に手を廻し、抱き締めていたのだった。
 「もっと。俺に良く見えるように。」
 円は仰け反る様に顔を上げる。
 真上から見下ろすマスターの顔をまともに見ることが出来ない。
 男の人にマジマジと顔を見られるのは初めての経験。
 まして恥ずかしい姿の自分を見られるなんて・・・・
「・・・どうします?ここで止めておきましょうか?」
 マスターが能面のような表情で冷たく告げる。

 「え?あ?・・そんな。」
 高揚していた気分が奈落に突き落とされる。・・・ここで止めるなんて酷い。

 初めに湧き起こった感情。・・・・酷い・・・意地悪・・・・意地悪・・・

 次に湧き起こったのは安堵。・・・・彼を裏切らずに済む・・・・・

 続いて・・・疑問と屈辱感・・・なんで?・・・どうして?・・・欲しくないの?
 円は自分の女としての魅力を否定されたと感じた。
 そのくせマスターの指の動きは止まらない。
 おびただしい淫汁が太腿を濡らしている。マスターの指の動きに合わせて腰が自然に動く。
 「どうします?」
 また短く聞く。

 いまさら・・・・円は想う。

 ふと、思う。マスターは・・・私の口から言わせたいのだ。円が自分からマスターを求めた事を・・・・
 児戯だと思う。 普段の円ならこのままこの部屋から逃げ出すだろう。
 しかし、逃げない。逃げられない。
 円は知らない世界を垣間見てしまった。
 未知の世界・・・・未知の領域・・・
 指でさえ・・・こんなに・・・感じてしまう・・・それなら・・・
 マスターの・・・
 円の頭の中に今、彼は居ない。
 真っ白な霞が立ち込め、円の意識野を覆ってしまっている。
 

 見下ろすマスターの目が暗く瞬く。
 指技は変らず円を追い込む。
 「はぁぁ・・・ひぃぃ・・・ふぅぅん・・あぁぁ・・あんあん・・あっ・・あっ・・
 あぅう・・ひっ・・はぁ・・・はぁ・・イヤっ・・・あぁ・・いやぁ・・・」
 円の蜜壺の入り口が大きく割り開かれる。


【like an angel of the devil】(4)~円の場合~

 今夜の装いは【Black by moussy】のツィードのジャケット。
 けどマスターは興味が無い様子でさっさと脱がして行く。
 『あぁ、まって。』
 kissの合間に円がマスターを制止しようと言葉を掛ける。
 しかし、マスターは動きを止めようとしない。忽ちランジェリーだけの姿になってしまう。
 『あぁいや。恥ずかしい。』
 円には明るい所で男性にランジェリー姿を見せた事が無い。
 エレガントなヨーロピアンクチュールを思わせる、大人の女性の洗練されたセクシーをメイクする、【アンプリスィット】の【アゾット】が美しいフォルムをマスターの眼前に提供された。
 マスターは円の豊満な肉体を包むセクシーなランジェリーの上から、女らしさを主張する乳房を掌で包み込むように触り始める。
 『あっ、ううん。いや。』
 円が可愛い声を上げる。
 彼はこんな事はしない。
 暗がりの中で、円が裸になってベッドへ潜り込むまで大人しく、じっと待っている。
 『あぁん。』
 マスターの掌が双房を揉みしだく。
 左右の乳房が拉げ、形が如何様にもされてしまう。
 しこってきた乳首を両親指で押し潰し、廻すように動かす。
 『はぁぁん。』
 『あっあっ。』
 円は初めての感覚に声を押し殺す事も出来ない。
 彼なら・・・少しの間だけ乳房を揉んで、乳首に吸い付くだろう。
 マスターの愛撫は執拗だった。決して一点に集中しないように、左右の乳房を丹念に刺激する。
 胸の谷間がじっとり汗に滲み、息を乱した円の双丘はふいごの様に上下してしまう。
 強く弱く、ジワジワと乳房が揉まれ、親指と人差し指に挟まれた両乳首がギュッと摘ままれる。
 『あぁん、はぁ。ぅぅ。』
 ブラが外されていた。
 暖かい掌が双丘を鷲掴み、前後左右に揉みしだかれる。
 その時になって漸くマスターは、円をお姫様抱っこしてリビングに連れて行った。
 壁際の武骨なパイプベッドの上に身を横たえた円は、恥ずかしげに両手の掌で顔を覆った。
 その手をマスターに外されると、直ぐにキスの嵐が円を襲う。
 唇も瞼も額も、耳たぶも首筋もマスターの唾液によって汚されて行く。
 マスターの唇が鎖骨の上をさまよう頃には、無意識の内に円の両太ももが擦り合わされていた。
 唇はそのまま下へ下へと移動し、双丘の周りに赤い痣を付けて行く。
 『あっ、そんな、ダメ。』
 マスターの手が腰の辺りを摩り唇がまだ桜色した小さな頂きをねぶる。
 『あっあっ、あぁ。あん、あん、あぁ。』
 40男の執拗な責めに円は手放しではしたない声を張り上げている。
 マスターの脛毛の感触を太股に受け、益々円は乱れる。
 その足が円の両足を割って入りこみ、女の源泉に膝頭が押し付けられる。
 舌先がおへその窪みを通り過ぎ、ショーツの端に差し掛かる。
 腰に当てられていた指がショーツをすくい上げ、円自身をマスターの眼に触れさせようと、ゆっくりと下げられて行く。
 『あぁいや。恥ずかしい。ダメ、ダメです。』
 押し下げられたショーツと共に、円の翳りが露わになって行く。
 綺麗に処理されている恥毛の剃り後にマスターの唇を感じた円は、恥ずかしさの余り、全身に力を込めた。
 膝頭が微妙なバイブレーションを送り込み始める。
 円は急速に力が抜けて行くのを感じた。
 身体の中心から波の様なものが全身に広がり始め、円の抵抗を奪って行く。
 膝頭が当たっている処に熱い湿り気を感じたマスターは、一気に円のショーツを足首まで引き下ろした。
『あっ、見ないで。』
 弱々しい声で、哀願したが、マスターの力強い手で左右に割り裂かれてしまった。
 黒々しい翳りの下に息付く円の女は、いまだ慎ましやかな佇まいを見せていた。
 マスターが顔を埋めて、円の亀裂に舌を伸ばす。
 舌の刺激を受けて円の亀裂は、鳳仙花の実の様に弾け、綺麗なピンク色の柔肉をマスターの前に晒した。
 【綺麗だ。】
 この部屋に戻ってきたマスターの2度目の発声が、円の女を見た感想だった。
 『あぁ、恥ずかしい。』
 この日何度目かの円の恥じらいの声が上がる。



【like an angel of the devil】(3)~円の場合~

 『マスター。カクテルで無くても良いの。何か記念になるお酒無いかしら。・・・こうして4人揃って飲めるのも何時になるか判らないから。』
 円が少し寂しそうに笑う。
 【そんな事は無いでしょう?何時でも逢えますよ。】
 事情を知らないマスターが慰めの言葉を言う。
 円が小声で囁く。
 『彼がね・・・・嫌がるの。【女は家庭に居るべきだ。働くなんて僕は好きじゃ無いな。】・・・父がね、工場を経営しているの。この不況で苦しいの。・・・・・彼のお父様が・・・』
 円の顔が憂いに翳る。
 【どうぞ。】
 マスターがスコッチいスキーを差し出す。
 【ロイヤル・ハウスホールド1707記念ブレンドです。】
  ブキャナン社が英国王室御用達として製造しているお酒です。昭和天皇が皇太子時代に訪英した際にプレゼントされ、大変気に入られた様子に特別に日本だけに輸出が認められた。一般に飲まれるのは日本だけかもしれないお酒で、本国でも容易には飲めない。
 【この1707記念ブレンドは大英帝国誕生300周年を記念してブレンドされたものです。】
 円の口の中で複雑なフルーツの風味が拡がった。その後スモーキーさが加わり、やがてスモーキ―さが薄れて行くと、オランジュの甘い風味が、口にする者を惑わす程の官能的な味わいとなって、オレンジの風味が口の中を覆い尽くしたままフィニッシュへ向かった。
 『美味しい。』
 『私も今後ハウスホールド・・・・になるのよね。・・・・わたしに相応しいわ。』
 円の目が心なしか潤んでいる。
 その時、barの柱時計が0時を告げる。
  『お代わり。』
 マスターがシェイカーを振るう。
 『なによ、これ。』
 一口飲んだ円の声に怒りの成分が含まれていた。
 【シンデレラ。】
 カクテルグラスの中には、オレンジジュース。レモンジュース。パイナップルジュースがシェイクされて入っていた。
 つまりノンアルコールのカクテルだった。
 【12時を過ぎました。お嬢様はお家へ帰る時間です。】
 『・・・もっと酔いたいの。ねえ、マスター夢から覚まさないで。』
 【夢を見るのには人生は長過ぎる、愛を育むのには人生は短過ぎる。】
 『やだ、くさいセリフ。それに、意味も不明だし。』
 【あれ?決まりませんでした?おかしいなぁ?これで円さん、堕ちるかと思ったのに。】
 『冗談、マスターになんか、堕ちませんよ。』
 落ち込んだ心が少し軽くなった。
 彼を嫌いな訳ではないし、家から1歩も出られない訳でもない。ただ独身の頃の様に自由に時間を使えないだけ。
 『ね、今の本当にわたしを口説いてくれたの?』
 【さあ?、40過ぎの男が、若いお嬢さんに相手にされると思いますか?】
 マスターが冗談めかして笑う。
 『シンデレラの魔法は12時を過ぎると解けるの。そこからは貧しいただの少女よ。』
 【青少年保護条例違反で捕まるかな?】
 『わたしは女よ。青少年じゃないわ。』
 傍で聞いている人がいたら、吹き出してしまいそうなセリフ回しに円は愉しげに笑いだした。
 『ありがとうマスター。』
 マスターは花梨に呼ばれてカクテルを作りにその場を離れて行った。
 そしてまた外へ出て行く。
 
 カチィ~ン。
 【ほぅー。】
 白い輪がゆらゆらと辺りに漂う。
 【・・・あそこに。】
【テレビ塔のイルミネーションが見えるだろう?あの隣のマンションの7階777号室。】
 マスターが後ろも見ないで、鍵を差し出した。
 円はそれを受け取ると黙ってbarの中へ入って行く。
 マスターは煙草を思い切り吸いこむと暗い夜空に向かって吐き出す。
 【マズイな。・・・・夜が長過ぎたな。】
 
 部屋の中は殺風景だった。
 壁際に置かれた武骨なパイプベット。
 スチールで出来たスケルトンの収納ラック。
 壁に掛けられたアンディ・ウォーホールのシルクスクリーンのマリリン・モンローと窓際の観葉植物だけが存在を主張している。
 この部屋以外の部屋には生活臭が無い。
 台所とこの居間が彼の空間だ。
 メールが入る。
 【棚の中段に木箱が有る。開けて飲んでいてくれ。】
 たった1行の短いメール。
 箱の上段中央に四角く囲まれた【BUSHMILL】その下に【MALT】と21.
 北アイルランド産のお酒。
 アイリッシュ・ウィスキー、シングルモルト。
 世界で1番古い醸造免許を赦された蒸留所のモノだった。
 口当たりがとても滑らかでスコッチの様なスモーキ―さが、無いのに甘い。
 またメール着信音。
 【あと5分。鍵を開けておいてくれないか。】
 また一口啜って、玄関に向かう。
 ドアの前に立つのと同時にチャイムが響く。
 覗き穴から確認してドアの鍵を開けた。
 目の前にバラの中に白いマーガレットをあしらったブーケが差しだされる。
 キュートな花束。マスターの顔からは想像もつかないプレゼント。
 【ようこそ。like an angel of the devilへ。】
 どちらの意味だろう?
 天使か悪魔か?
 自分の立場を考えると後者の方かな?
 この部屋に入った時から円には羽が生えていたのだろう。
 二人の唇が重なり合うまで3秒も掛らなかった。
 マスターの唇にはホープスーパーライトの煙草臭い匂いが染みついている。
 煙草の匂いが嫌いな円だが、今は気にならない。


【like an angel of the devil】(2)~円の場合~

 スッと円の前に【ホワイト・レディ】が差し出された。
 【御結婚おめでとうございます。店からのささやかなプレゼントです。】
 マスターがさりげなく言葉を添える。
 『ありがとうございます、マスター。』
 『あ~あ、なかなか来られなくなっちゃうなぁ。お酒も家で飲むだけかぁ。ねえ、マスター。このカクテルの作り方教えて。』
 【ドライ・ジン。コアントロー、レモンジュースをシェイカーに氷と一緒に入れて、シェイクします。】
 『コアントローって?』
 【フランス産のリキュールの一種です。】
 円は携帯を取り出すとマスターに向けた。
 『もっとレシピを教えて。』
 赤外線通信を終えるとマスターが言う。
 【コアントローはホワイトキュラソーの一種でコアントロー社が製造しています。無色透明オレンジの香りと、まろやかな甘さが特徴なのですが、氷等で冷やすと淡く白濁する。これがホワイトキュラソーと言われる所以です。】
 『マスターは何種類のカクテルが作れるの?』
 【さぁ?数えた事が無いから。】
 『マスターが一番好きなカクテルは?』
 【わたしは飲めないんです。】
 『え?それなのにバーテンダーを?』
 【味はお客様が飲んで確かめてくれます。美味しくなければ2度とこの店には来ない。】
 『随分危険な賭けですね。』
 【そうですね、でも結婚も同じですよね。独身の私には危険な賭けに思えますけど、だって僅かの間のお付き合いで一生を決められるんですから。あっ、失礼しました。】
 言われてみれば、大きな賭けだ。円もそう思った。
 マリッジブルー。
 多分そんなものなのだろう、この所実は迷い始めている。
 彼は確かに優しくて、清潔感溢れる人、何より頼り甲斐が有る。堅実で真面目な人だ。
 それなのに、ドキドキ感が無い。次に何をするのか時々先に読めてしまう。
 贅沢な悩みだと皆言うだろう。特に鈴や彼女は。
 自分でもそう思う。でも、・・・・・冒険を夢見ていた。
 危険な香りに包まれて見たい。
 ギリギリの攻防を・・・・この身が焦れる恋がしたい。
 『はぁ~。』
 無謀な夢。
 マスターの目が微笑んでいる。良かったね、と言う祝福と平凡な人生を選んだ私への憐憫。
 私にはそう見えた。
 【どうぞ。】
 またしても目の前にカクテルが置かれた。
 【ギムレット。】
 『何故このカクテルを?』
 【チャンドラーの小説の中でレノックスが言ったセリフですよ。『I suppose it's a bit too early for a gimlet』】
『ギムレットには早すぎる。?』
 【ええ、そうですが、小説のタイトルを意識しました。円さんとは『長いお別れ』ですから。】
 アメリカのハードボイルド小説の作者レイモンド・チャンドラーの有名な探偵小説。
 フイリップ・マーロウが主人公のハードボイルドの中のセリフだった。
 そのほかにも有名なセリフが有る。
 『If I wasn't hard, I wouldn't be alive. If I couldn't ever be gentle, I wouldn't deserve to be aliv』
【男は・・・・『タフでなければ生きていけない。優しくなければ生きて行く資格が無い。』】
【『プレイバック。』だね。円さんに捧げるセリフに相応しいのかな。】
 【どうぞ、お幸せに。】
 切なさがこみ上げて来た。
 独身最後の夜でもないのに、なんだか自分だけが別世界に行ってしまうような気分になる。
 『マスター。お名前を聞いていなかったわ。』
 【マスターで結構です。】
 何故か拒絶された気がする。胸がキュンと痛む。
 マスターは花梨のカクテルを作っている。そして鈴のカクテル。どんどん私から離れて行く。
 あぁもう酔ったのね。
 帰らなくては。
 その前にお化粧を直して・・・・・
 誰の為に?何のために?
 いま何時?
 マスターが微笑んでいる。しなやかな指がシェイカーをシェイクしている。
 マスターがそっとカウンターを離れる。
 チーフに変わっていた。
 急いで裏口からそっと外を覗く。
 カチッ、ホープスーパーライトの箱が閉じられジッポライターの蓋が閉じられる。
 【ふぅ~。】
 紫煙が立ち込める。
 煙が沁みたのか、目を細めて虚空を見た。
 痛い。チクリと胸が痛む。
 男の人の喫煙は嫌いだった。
 彼も煙草は吸わない。・・・・しかし夜の帳に紫煙が一筋、映画の場面がよみがえる。
 ボギーもこうして吸っていた。
 映画の様にセクシーな立ち姿。寂しそうな背中。
 そっとその場を離れた。
 見てはいけない風景。
 Barの中には、花梨、鈴、彼女が小粋にグラスを傾けている。
 こうして4人で飲むのは多分最後の夜。


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プロフィール

HIRO(S)

Author:HIRO(S)
HN:HIRO(S)
年齢:秘密
性別:秘密
地域:関東地方
動機:gooで削除されたので。
一応フィクションとしてますが、ナイショ
写真は・・・・いけないんだぁ

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